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2004/09/25

ラストサムライ

監督:エドワード・ズウィック
出演:トム・クルーズ/渡辺謙/
30点満点中18点=監4/話4/出5/芸2/技3

【激しく共鳴する、異なる国で生まれたふたりのサムライ】
 政府軍の非道な振る舞いに嫌気がさし、いまでは酒びたり、新式銃のデモンストレーターに身をやつす南北戦争の英雄オールグレン。請われ、軍事顧問として開国直後の日本を訪れた彼は、旧体制派の最後の生き残り、武将・勝元と出会う。戦うことに真摯で、民とともに誠実に日々を送る勝元の生き様に共感したオールグレンは、このサムライと歩みをともにすることを決意する。が、時代は確実に変わろうとしていた。
(2003年/アメリカ)

【誠実さと丁寧さ、そして渡辺謙の存在感は買える】
 一部には「いわゆる“勘違いニッポン像”の少ない映画」との評判もあるが、実は「何故そこに富士山が」などと突っ込みどころは満載。音楽にも、例によって中国趣味が混じっている。観る人が観れば、兜のデザインや服装など、山のように事実誤認があるようだ。
 そこで興を削がれると楽しめない“分岐点”のある映画とされているようだが、そういう細かい点を気にするべき作品ではないし、誠実な姿勢で当時の日本を描こうとしていることに好感をおぼえる。また登場人物たちの心情の描き方(日本でも体制側に立つことになったオルグレンの葛藤など)やストーリー展開などに「わかりやすく」という意図も感じられ、違和感なく入っていける映画である。2時間半の長尺であっても、叙事詩と叙情詩のミクスの按配がよくて、ノって見ていけるのだ。

 逆に気になるのは、どうしてもスケール感の出ない合戦シーン、セットにしか思えない家屋敷といった、時代劇の宿命とも言えるチープさだ。街並みや村の再現など精一杯に頑張ってはいるようだが、「いまそこで撮りました」という即物的な雰囲気を払拭できていない。その点では、クロサワ映画のほうが当然ながら上の上の上である。
 特に心残りなのがクライマックス、新政府軍と勝元の軍勢との合戦。状況が状況だけに、勝元らの軍勢が数において不足するのは仕方ないにしても、白兵戦の迫力などはもっと出せたはずだ。
 また、この合戦、明らかに勝元らが不利な地形でおこなわれる。ストーリーを考えても、物量に勝る新政府軍の勝利は約束されている。それでもここで戦う意味、玉砕も厭わぬ決意のほどをしっかりと描くべきではなかったか。
 せっかく、静謐に、粛々と流れる時間と空気感を映し出すことに成功しているのだから、なおのこと、迫力や臨場感を出し切れていないシーンが惜しまれる。

 キャスティングとキャラクター設定の健闘は、周知の通り。一部に不自然な演技をする者もいるが、渡辺謙の圧倒的な存在感は言わずもがな、天皇に七之助を持ってきたり、真田広之演ずる氏尾を必要以上にでしゃばらせなかったりと、日本側の役者は完全にトム・クルーズを食っている。中でも、食事シーンなどに見られる子役の立ち居振る舞いは、演出の上手さもあって極上だ。ただ小雪だけは、どうもヒロインとして馴染めないのだが。これが麻生久美子あたりだったらワンランク上の作品になっていたかも、とも思う。

 一生懸命に作って、観るべき点も多いが、それだけに欠点も目立つ、この映画。ただ、渡辺謙のためだけに観る価値のある映画ともいえる。

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