戦場のピアニスト
監督:ロマン・ポランスキー
出演:エイドリアン・ブロディ/トーマス・クレッチマン
30点満点中17点=監3/話3/出3/芸4/技4
【戦争に翻弄され、家族と人生を奪われたピアニストの物語】
戦時下のポーランド、ナチス・ドイツの政策によりゲットー(ユダヤ人居住区)へと移されたピアニスト、ウワディク・シュピルマン。強制収用所行きは免れたものの、家族は奪われ、人を人とも思わぬ軍人たちの仕打ちや、人の尊厳を奪い去る社会の中で、死よりも過酷な生活が彼を待っていた。逃亡の果てにたどり着いた一軒の廃墟。そこでシュピルマンは、穏やかな顔を持つドイツ人将校に演奏を聴かせることになる。
(2002年/フランス・ドイツ・ポーランド・イギリス)
【淡々とした語りが、余計に戦争のむごさを暴く】
ユダヤ人ピアニストとドイツ人将校の交流がストーリーの大部分かと思っていたところ、それは、いくつもあるエピソードの1つ。予想・期待とは違ったが、これはこれで見ごたえのある映画だった。
主として描かれるのは、戦争がいかに人を人でなくしていくかという点だ。他人の食べ物を奪い、媚びへつらい、ひたすら逃げる人々。レジスタンスも存在するが、力ない抵抗は新たな死者を増やすばかりだ。
情感や心理描写は抑え目で、哀しさ辛さ、苦しさ空しさが声高に叫ばれることはない。むしろ、道に落ちたシチューをすする男、シュピルマンの名声を利用して金儲けを企む者、意味のない殺人など出来事が淡々とした口調で描かれる。それだから余計に、人から感情や尊厳を奪い去る戦争のむごさが暴き出されるのだ。
誰しも思い浮かべるのが『火垂るの墓』(高畑勲監督)。誰がどんな立派な演説をしようが、どんな理屈を述べようが、映画1本のほうがよっぽど反戦メッセージとして上質、ということを思い知らされる。
惜しむらくは、切羽詰った感が意外と薄いことだ。この種の映画、ある程度は観るのが苦痛と思わせることが必要だと思うのだが、割とスンナリ観入ってしまう。その点でキリキリと胃が痛むような『火垂るの墓』に及ばないのは、ストーリー展開などが「観ていて飽きない」よう配慮されていることもあるだろうが、相手が子ども、こっちは成人ピアニストというのも理由のひとつだろう。
でもそれなら“ピアニストである意味”というのを描くべきだった。事実をもとにしたストーリーなので無茶はできないのだろうけれど、主人公がピアニストである意味をもっと前面に打ち出さないことには、このタイトルには納得できない。だからこそ「ピアニストとドイツ人将校の交流が大部分」という作りかたが正しいと思うのだが。キャッチコピーからして「音楽だけが生きる糧だった」なのだし。
ゲットーなどでセットっぽさが気になるところはあるが、廃墟を再現した美術・CGは見事。一級のクラシックをメインに据えているだけに、音楽も戦争の哀しさをいや増している。
ただラスト、演奏する手のアップからそのままカメラを引くとエイドリアン・ブロディ(カードを操る手がポール・ニューマン、みたいに)だったら、なお良かった。そういう映画ならではの面白さがあって初めて、メッセージ性を離れた部分での映画としての評価は大きく変わるはずだ。
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