キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:レオナルド・ディカプリオ/トム・ハンクス/クリストファー・ウォーケン
30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4
【ユーモアたっぷりに実在の犯罪者を描く】
父の事業失敗と両親の離婚を機に、家を飛び出した高校生のフランク。心にあるのは優しい父への想いと、父を貶めた社会への復讐心、頼りとするのは自らの知恵と度胸。ある時はパイロット、またある時は小児科医に化け、偽造小切手で荒稼ぎを企む。彼を追い詰めるのはFBI捜査官のカール。が、やがて追う者と追われる者の間に不思議な感情が……。実話をもとに、ユーモアとスリルと寂しさをたっぷり詰め込んだ犯罪映画。
(2002年/アメリカ)
【イキな構成・展開・役者】
事実を基にした映画には、おのずと時代性やライブ感、リアルさが生まれ、「へぇ」という感心を呼ぶ強みも持つ。いっぽう、なかったことは描けないのが弱点であり、また濃密でユニークな実話ほど「何をどう省略するか、どう脚色するか」という難しさが増す。
この作品の場合も、そうして“描かれなかった”事柄が気にかかってしまう。パイロットや医師などに化けたことによって、たとえば急患が運び込まれて困惑するエピソードのように「何が起こったか」は語られるが、その地位をどう利用したかが不足している。詐欺(のための小切手偽造)の手口や規模も曖昧だ。事実だから仕方ないのだろうが、必要な機材を簡単に手に入れられるというのも都合が良すぎる。
また、主人公フランクの父はどのように凋落したのか、父への敬愛はどれくらいあったのか、自分を追う捜査官カールに電話をかけるまでのフランクの葛藤、家を飛び出す前から持っていたであろうフランクの詐欺師としての素養、婚約者ブレンダに本名を明かすにいたる「家族」への想い……、といった点も、もっと描けただろう。
こうした描写こそがフランクのキャラクターに奥行きを持たせ、ただの犯罪者ではない、素顔は寂しい十代なのだと観客に理解してもらうことが必要だったはず。そうして初めて観客も、タイトルが「つかまえてみな」というよりも「つかまえてほしい」ではないか、と気づくのだ。
こうした不完全さを残すにも関わらず面白い映画に仕上がったのは、語り口の爽やかさとリズムゆえだろう。ゴリ押しのスピーディさではなく、メリハリを利かせながら、時間を自由に行き来しながら、決して軽妙ではないが心地よいテンポでストーリーが進んでいく。
まず(出てくる女性すべてがバカというのはどうかと思うが)中心となる3人が出色。ディカプリオは「罪の意識が希薄で少年性を残す詐欺師」という役にハマっているし、トム・ハンクスはいつもながら堅実。クリストファー・ウォーケンは、行方知れずの息子の突然の出現に言葉が出ないところなど、本人も演出・編集もあからさまに助演男優賞をにらんだ作り、濃厚で存在感たっぷりだ。
お話の構成も見事。二匹のネズミ、剥がされるワインのラベル、金のペンダント、ヤンキースの話、フランス語、帽子にサングラスというFBI捜査官のお決まりのいでたち、コミック本、クリスマス、職業のイロハを学ぶために用いられる映画、盲目の旅行客、ウイットにあふれるセリフ……など散りばめられた小物やエピソードの数々が、シーンごとのアクセントとして機能するとともにストーリーとも密接に絡み合い、単なる飾りになっていないのがいい。
また、キーとなる出来事やセリフが次のシーンへの、あるいはもっと後のエピソードへのスマートなつながりや鮮やかな場面転換に役立てられている点も秀逸だ。スパイはスポーツカーに乗っているなんて話が出れば、直後にはそのクルマのシーンでなくてはならないし、収監されたフランクにカールが会いに来るシーンでは、最初に発せられるセリフは絶対に“アレ”でなくてはならない。十分に練られているなぁと感じさせるところだ。
画面の構成や色合いも素晴らしい。固定カメラと移動、ロング~アップと多彩かつ的確なショットで単調さを排し、ホコリっぽい安アパート/邸宅/雨のフランス/晴れたマイアミと、明るさも規模も温度・湿度も異なる場所の空気感を描き分けて、特定の場面だけを突出させることなく、全編を通じての“流れ”や“弾み”に気を配っているようだ。タイトルバックからして粋だし、捜査官の接近をにおわせるなど音楽の使いかたも上等。
省略や脚色に若干の不満はあるが、適度に息を抜きつつ、構成力・展開力・役者の使いかたの上手さなどを示して、さすがはスピルバーグ、である。
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