シャイニング(ギャリス版)
監督:ミック・ギャリス
出演:レベッカ・デモーネイ/スティーヴン・ウェバー/コートランド・ミード/メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ
30点満点中13点=監2/話2/出3/芸3/技3
【ホテルに棲む魔たちが、一家を苦しめる】
アルコール依存症に生徒への暴力事件。教職を追われたジャックは、オーヴァールック・ホテルの冬季管理人という仕事をなんとか得る。妻ウェンディ、息子のダニーとともに無人のホテルに赴任したジャック。だが、人の気配や血の文字など、一家は不思議な出来事に悩まされ、やがてジャックもホテルの魔力に取り込まれてしまう。ホテルに巣食う霊たちの真の狙い、それはダニーが持つ超能力によって現世に蘇ることだった。
(1997年/アメリカ/TV)
【語るべきを語らず、描くべきを描かず、間延びだけが目立つ】
キューブリック版に満足できなかった原作者S・キングが製作総指揮と脚本を担当、新たにテレビシリーズとして映像化した作品。
さすがにオチやストーリー展開はわかりやすくなったといえる。が、ただそれだけ。しかもアメリカでは「チープなプロット」と揶揄されているらしいキングの持ち味全開(?)といった印象だ。
まず第一に、ムダに長い。約90分×3部構成、総計4時間半。これだけの長尺ならふんだんにエピソードを盛り込み、ジャックがホテルの魔力に囚われていく様子や漂う恐怖を丁寧に描けたはずだが、1カット・1シーンを意味なく引き伸ばした感が強く、冗漫にすぎる。特殊撮影なども、それほど予算をかけられないテレビシリーズということもあってか、ややチープ。全体として「ま、放送時間とかスポンサーの関係もあって無理やり3部構成にしたんだろうなぁ」と、冷めた目で見ざるを得ない。
酒を断っているジャックの苛立ち、その中でオーヴァールックホテルの歴史に魅入られていく姿、そんなジャックに不安を募らせるとともに不思議な現象に怯える家族、と、それなりに筋道を立てて見せようとはしている。だが、ホテルの過去、ジャックの過去、ダニーの能力などが絡み合いながらストーリーが進んでいくという構成が取られておらず、「エピソードや設定が互いに関連しあう、まとまりのあるお話」としての完成度は高くない。たっぷり時間があるわりに、出来事や家族の心情の表層を撫でているだけの描写、長いセリフのやりとりばかりが目につき、テンポ・リズムが間延びする。見せ場であるはずのジャックが狂気へと陥る過程もしっかりと語られていない。
また、霊たちの立場も曖昧。ダニーの超能力を利用して復活しようとしているのか、それともダニーへの恐れが強いのか。いずれにせよ、思惑と行動とが一致していないように感じる。またダニーやウェンディも、ここにいてはいけないと自覚しつつ何も手を打たず、ノンビリ過ごしている。
そうしたチグハグさが、恐怖感を削ぐことにもなっている。つまり、ダニーやウェンディが霊から逃れるために「何をしてはいけないのか、何をすべきなのか」が判然とせず、緊迫感が薄れてしまっているのだ。突然現れる霊などショッカーとしてのセオリーを踏まえた場面はあるが、恐ろしさを感じない。驚かせることと怖がらせることの違いを、製作者サイドが理解していないようにも思える。
救いは、ダニーを演じた子役の存在。心の中に住む友人トニーの描写はキューブリック版のほうがはるかに優れている(ダニーが自分の人差し指と会話する。いっぽうギャリス版はトニーの実像が登場)ものの、ダニー自身の表情や演技などは負けていない。それに、間延びしてはいるものの「飽きる」「観るのがイヤになる」ということはなく、4時間半をきっちりと作り切ったことも評価していいだろう。
万人受けすべきものを作らねばならないテレビシリーズゆえ、描写できなかったこともあるだろうし、ただ話のわかりやすさやまとまり感だけに収束してしまうのは無理もないといえる。が、そこにとどまっていては作品としての完成度は上がらない。キューブリック版とギャリス版を足して2で割って、キングの影響力を排してさらに不足を補い、トム・ホランドあたりに監督をやらせればいい作品になりそうな気がするのだが……。
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