ニューヨークの恋人
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:メグ・ライアン/ヒュー・ジャックマン/リーヴ・シュレイバー
30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4
【公爵とキャリアウーマン、時間を超えたラブストーリー】
広告会社に勤めるケイトは、上司やクライアントからの信頼厚く昇進も間近。彼女はある日、元彼氏スチュアートの部屋で、古めかしい衣装に身を包む男、レオポルドと出会う。スチュアートが時間の裂け目を通って現代に連れ帰った19世紀の公爵だというが、信用できるはずもない。それでも、貴族としての高尚さと正義感を持つレオポルドに惹かれ始めるケイト。しかし、彼が1876年へと戻る日は、次第に近づきつつあった。
(2001年/アメリカ)
【単なるラブコメを超えるしっくり感は、まさにウェルメイド】
ラブストーリーには、もちろんロマンスが必要だ。主役となる男女がどのようにして出会い、どんなふうに心を通わせあい、どう恋を成就させるのか、その成り行き(すれ違いや意地の張り合い、涙、そしてキス)の波乱万丈を観客は期待している。が、それのみに頼る作品も多く、ただロマンスを盛り上げるためだけに実に都合よく記憶を失ったり大きなトラブルが発生したり怪しげな人物が現れたりする。
ロマンスをロマンスとして成立させようと思えば、悲恋にせよラブコメディにせよ、登場人物たちを取り巻く状況を生かしつつ、そのふたりが恋に落ちる必然性と展開の妥当性とをもって“シチュエーション・ドラマ”としての完成度を高めることが本来の姿勢であるはずだ。
たとえば『アパートの鍵貸します』(ビリー・ワイルダー監督)では、大企業の中で上手く立ち回ろうとする主人公の生きかたが、そのまま恋の行方に直結していたし、恋に不器用なヒロインの性格や軽さ、アパートの住人、シャンパンやコンパクトなど、あらゆる道具立てがしっくりとストーリーの中に収まっている。
本作の“しっくり感”も、なかなかのもの。
1876年のレオポルドの周囲にいるお嫁さん候補は、淑女ではあるかも知れないが公爵家の家名目当てで魅力のない女性たち。いっぽうプライドと知性はあるが、自己欺瞞も見え隠れするキャリアウーマンのケイト。そして、21世紀のケイトを悩ませる軽薄な上司J.J.と、貴族=紳士たるレオポルドとの対決。ふたりが異なる時間、異なる価値観の中で生きていることが大きな意味を持ち、設定や状況が互いに恋心を抱く背景として機能している。
また、レオポルドがエレベーターの発明者(正確には改良者で、おそらく執事オーティスの親類であろうエリシャー・オーティスにアイディアを売り、そこから実在のエレベーター会社OTISが大きく発展したという設定と推察する)であること、ケイトが担当するマーガリンのCM、NYを運行する馬車、橋、レオポルドの叔父の家、アパートの上下の部屋といった道具立てや、「階下のパーティは現実だ」「わがマクティ家」などセリフの数々が、それぞれ意味のあるものとして扱われ、ストーリー内にしっくりと収まる。
19世紀と21世紀との違いを、大仰になりすぎることなく示した美術やカメラ、お話のテンポの良さを支えた軽快な音楽も評価できる。全体に人物のウエスト~全身のショットが中心でキュートなメグ・ライアンの表情をあまり拝めないのが残念だが、それもクライマックスまで取っておきたかったという意図からだろう。
出演陣では、ヒュー・ジャックマンが出色。ミュータント役より英国貴族のほうが(少なくとも日本人の目には)よほどぴったりハマる。
練り切れていない部分にも、気がつかないわけではない。
ケイトがレオポルドに惹かれるのは理解できるが、レオポルドがケイトの魅力を感じ取る印象的なエピソードはぜひとも欲しかった。カットされた[オーティスとのバスタイム]というシーンも、「恋愛には飛び込む勇気が必要」というセリフと宝物をしまう場所が提示される重要な場面だけに残しておいてもよかっただろう。ケイトが自らの運命を決めるキッカケとなる写真にも、ひとひねりがあるとベターだ。J.J.のキャラクター造形、スチュアートを病院から逃がしてくれる女性の動機も不十分だ。個人的には、ケイトの弟チャーリーが兄であればさらに嬉しかった(ほとんど趣味の問題)し、ケイトの秘書ダーシーも「意地悪そうに見えて実はキレ者」というステロタイプのほうが、ニヤリとさせるシーンをあと1つ2つ作れただろうと思う。
が、それらを描かないことでテンポを作り出そうとした意図と、その意図が成功している点は買いたい。通常ならレオポルドにタイムスリップの仕組みを納得させることに時間をかけるはずだが、レオポルド=科学者かつ超然とした性格というキャラクターを生かしてアッサリとすませ、冗漫さを排した“省略の妙”も手際鮮やかだ。
映画における“ウェルメイド”の定義は人それぞれだろうが、ロマンスとコメディとタイムトラベルの要素をしっくりとまとめ、テンポよくハッピーエンドへと至らせるこの映画は、まさにウェルメイド。「よく出来てるなぁ」と安心し微笑みながら観られる佳作である。
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