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2004/11/15

天国の口、終りの楽園。

監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:ディエゴ・ルナ/ガエル・ガルシア・ベルナル/マリベル・ヴェルドゥ
30点満点中13点=監3/話3/出3/芸2/技2

【ふたりの少年、ひとりの女、二度と戻らない夏を往く】
 テノッチとフリオは親友で悪友。ガールフレンドがヨーロッパ旅行へ出かけたため、暇を持て余す夏を過ごしていた。そんなときに出会ったのが美女ルイサ。「飛びっきり素晴らしい海がある」と、ふたりはでっち上げのビーチ『天国の口』へのドライブにルイサを誘う。ルイサはテノッチの従兄弟ハナの妻だったが、ハナの浮気が発覚、夫婦仲が上手くいかずに落ち込んでいた。ゴールするあてのない小旅行へと、3人は出発する。
(2001年/メキシコ)

【どこか別の世界の物語、という違和感が強い】
 いわゆる“半径”映画。家族、友人、女の子。自分の手が届く範囲だけが世界だと考えている少年たちの日常が描かれ、カメラも彼らから10m以上離れることはない。キュアロン監督が『アズカバン』の直前に撮った作品のようだが、とてもそうは思えないような、売出し中の演出家のデビュー作っぽい内容と雰囲気と規模になっている。「原点回帰」のつもりだったのかも知れない。

 それにしても、あまりに能天気すぎないか。テノッチもフリオも頭にあるのはセックスのことだけ。18歳だから無理もないが、18歳はまた、進路だとか家庭だとか、そのほかもっとささやかな悩みが滲み出ていいはずの年頃ともいえる。
 もちろん、あえて雑多な要素を入れず、ただ「ルイサとヤりたいがための旅行」とすることで、そしてケンカの原因もガールフレンド絡みとすることで、この年頃のある一面(性への関心)や幼さを強調する意図があったのだろう。たぶん彼らはセックスのことを考えている間だけ、自分の周囲や未来にあるくだらないこと、目を背けたいことから逃れていられるのだ。性に対する尋常ならざる執念とモラトリアムは、18歳の男の子の中で切っても切り離せない関係にあることは確かだ。
 それでも、やはり、これが本当に等身大の18歳なのか、という違和感は残る。また「一面性の切り取りかた」も極端で、ガールフレンドやルイサとの関係、ドラッグ、ふたり並んでのマスターベーションなど、およそ善良な日本人には体験し得ないエピソードの数々。おかげで登場人物にもストーリーにも、どうにも感情移入することができず、日本とメキシコという地理的・物理的距離とは別に、地続きではないどこか別の世界の別の生き物の理解しがたいストーリーとして映ってしまうのだ。
 超能力者だとか殺人犯だとか、同じように「我々とは異質の人」を中心とする映画にも、もっと感情移入できるものはある。ところが、誰もが経験する18歳の夏を描いただけの映画が、こうも違和感を抱かせるとは。

 旅先での純朴な人々との出会い、車窓から目にする交通事故など、場面やセリフの端々に、リアリズムや情感があふれている。1時間40分を見せ切るパワーもある。主役ふたりも生き生きと動く。
 人物に寄りすぎることなく第三者としての視点を維持し、粒子の粗い絵柄でドキュメンタリータッチに仕上げたことも、18歳の夏を生々しく伝えるのに貢献している。長回しが目立つが、対象物とは別のものも映しこみながらストーリーを語り、また1カットずつを意味あるものにしようと配慮することで、単なるホームムービーとは一線を画すクォリティの絵を保っている。このあたりは『アズカバン』にも通ずる、キュアロン監督の作家性といえる部分なのだろう。
 が、ときおり顔をのぞかせる作為……演技、でっち上げのはずの「天国の口」が実在したという展開、ラストのレストランでのシーンなど……が、これがあくまでもシナリオと演出と“意図”のある劇映画だということを思い出させ、にも関わらず違和感に満ちていることの不思議さが、観ているものを不安にさせる。
 遠い国で、初めて食べるフルーツを口にして、美味いんだかマズイんだか判断がつかない。そんな感触を舌に残す映画だ。

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