シャイニング(キューブリック版)
監督:スタンリー・キューブリック
出演:ジャック・ニコルソン/シェリー・デュヴァル/ダニー・ロイド
30点満点中17点=監4/話2/出4/芸4/技3
【因縁が狂気を生み、静寂が狂気を加速させていく】
冬の間、雪に閉ざされる大ホテル。ここではかつて、春までの管理人として雇われた男が、あまりの閉塞感と静寂に耐え切れず家族を殺害、自殺するという事件が起こっていた。新たに管理を任されたジャック、妻ウェンディ、幼い息子ダニー、3人のトランス一家。だが、かつての惨殺事件の陰が、不思議な能力を持つダニーにまとわりつく。やがてジャックも狂気に囚われはじめ、ウェンディやダニーを追い詰めていく。
(1980年/イギリス)
【映画という刃物を持ったキューブリックという狂人】
いわゆるショッカーではないホラー。ゆえに怖くはない。だが、不気味ではある。いつまでも瞼の裏に焼きついて離れない衝撃に満ちている。後にさまざまな映画で模倣されたアイディアにあふれている。凄まじいまでに作家性が表出した作品だ。
血の奔流、たたずむ双子、笑う腐乱死体、深い雪、タイプライターとそこから吐き出される文章……。
あるときは写真のように、あるときはホームビデオのように、またあるときは安っぽいテレビドラマのように、画面は自在に変化して対象物を映し出す。強調されるのは直線、物の配置、赤と白のコントラスト、そして奥行き。ポイントでたびたび使われる鏡も印象深い。やや長めに作られたカットの合間にフラッシュバックやオーバーラップ、移動カメラによる追っかけが挿入され、それらがメリハリとなって、画面の連なりは一編のソナタのようだ。やや室内と室外のつながりが希薄にも思えるが、全体として冬の無人ホテルの冷たさをしっかりと漂わせる。神経を逆なでする音楽も効果が高い。
話の中心となるトランス家の面々も、感情を弾けさせる。ジャックの狂気、ウェンディの怯え。そして何といってもダニーの、一点を凝視してその向こうまで見透かすような視線と、ささやいたり搾り出したりするさまざまな声音。このキャスティングがあったからこそ、本作のシャープさは高められているといえる。
が、物語はないに等しい。一応は、過去の事件と今回とのつながりが各所で示唆され、ホテル内で起こる出来事は一貫したトーンと一定の整合性(あるいは非整合性)をもって語られるが、エンディングに至っても解決のカタルシスはなく、かといって「つづく」への想起もなく、「なぜ、何が起こったか」は観客の判断力と理解力に委ねられることとなる。
多くの“欠け”や省略も目につく。料理主任ハロランは思わせぶりなわりにアッサリと最期を迎えるし、ジャックが狂っていく過程も唐突な感じが否めない。
全体として、作家性の強い人物が作る話にありがちな、自己完結で頭でっかちな内容となってしまっている。ハリウッドの資本が全面参加していれば、こうはならなかっただろう。
もっとも、こうした“欠け”というか、何もかもを明らかにしないところが不気味さを増しているともいえるのだが。
本作に対して原作者スティーブン・キングは怒りを隠し切れないでいるというが、確かにキューブリックの作家性が前面に出た、というか、原作者の作家性を否定する(原作読んでないけど)ほど出すぎた感のある作品なのだろう。
いっぽうで、キューブリックとアーサー・C・クラークの徹底した対話から生まれた『2001年 宇宙の旅』は、キューブリックの作家性が表出しながらも、クラークの天才性が加味されることでコントロールされ、頭でっかちではあるものの1つのメッセージとして成立していた。
2本の映画の、似ているようで異なる性質・位置づけに、狂人(だか天才だか)に映画という刃物を渡して自由に振る舞わせることの意味を考えさせられる。
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コメント
TZK様
BLOGを拝見しました。2部構成&フィクション内フィクションへの言及など「力作」と言える分析/レビューで感服しました。
当方もある映画についてシーン/カットごとに分析したいとは考えているのですが、体力的・精神的にマイってしまいそうで踏み出せずにいます。
今後ともよろしくお願いします。
投稿: たにがわ | 2009/07/31 20:39
こんにちは。
映画「シャイニング」のことをBLOGに書こうと思って、あちこち検索していたところ、こちらにお邪魔しました。
映像的な魅力を端的に書かれてますね。
「シャイニング」には不思議な魔力があり、
何度観たかわからなほど繰り返し観てしまいます。
そこで、気がついたことがあったのです…
TBも送らせていただきました。
投稿: TZK | 2009/07/31 14:17