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2004/12/23

ターミナル

監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:トム・ハンクス/キャサリン・ゼダ=ジョーンズ/スタンリー・トゥッチ/バリー・シャバカ・ヘンリー/ディエゴ・ルナ/チー・マクブライド/クマール・パラーナ/ゾーイ・サルダナ
30点満点中16点=監3/話3/出4/芸3/技3

【故郷を失った男は、空港でひたすら待ち続ける】
 母国クラコウジアで内乱が勃発、パスポートは無効となり、アメリカへの入国も故郷への帰国もできなくなったビクターは、仕方なくJFK空港の国際線乗り継ぎロビーで暮らし始める。警備責任者ディクソンは何とか厄介払いをしようとするのだが、ある約束を胸に秘めるビクターは、英語を覚え、空港内で金を儲ける手段を見つけ出し、友人を作り、キャビン・アテンダントのアメリアと恋をし、ひたすら“その日”を待ち続ける。
(2004年/アメリカ)

【笑える話でテンポもいいが、鮮やかさが足りない】
 映画に(特にスピルバーグ作品に)完璧を求めるものにとっては、少々ツライ仕上がり。たとえば人物が両手を開いて喋っているカットがあり、切り替わって背中から映したときには手を閉じていたりなど、些細ではあるが基本的な部分での瑕疵が、まま見られる。
 映像的な表現の点でも、国際線ロビーをグルリと回るカメラ、グレイが基調の空港と夜のNYのネオンサインの対比など、それなりに観るべき点はあるものの、時間の経過が不明確であったり、導入部がやや説明口調っぽかったりして、全体として野暮ったい感じだ。
 また、ロケーションはほぼ空港内に限定され、登場人物も少なく、しかもトム・ハンクスのひとり芝居的な要素が大きいため、舞台劇のような雰囲気が強い。それも「映画ならではの鮮やかさ」を欠く要因となっているように思える。

 どうやらスピルバーグ自身「歴史に残るものではなく、ちょっと笑えるものを撮りたかった」といっているらしく、確かに軽い作品というか、準備や撮影、ポスト・プロダクションにあまり時間をかけ(られ)なかった雰囲気がある。そのせいで鮮やかさや凝縮感が不足し「ああ、これぞ映画だよ」と思わせる部分があまり見られないのだ。

 濃密さの欠如は、登場人物たちのアイデンティティとその対比の薄さにも要因を求められそうだ。
 本作には『人生は待つもの』というテーマがあり、確かにビクターは入国できる機会を、ディクソンは昇進を、アメリアは男からの連絡を、それぞれ待ち続け、フード・サービス係のエンリケは待つだけではなく入国係官トーレスへの思いをアクションにして示すなど、“待つ”という行為の対比が示される。が、各人の行動の動機付けが少々曖昧で、AがあるからBの出来事が起きる、といった展開上の鮮やかさが感じられないのだ。
 せっかく中国人の偽造パスポート騒ぎや「カメラに監視されていることに気づくビクター」というエピソードがあり、またディクソンの上司として味のある人物も用意されているのだから、ビクターが「不法な行動を取ってまで入国しようとは思わない」と決意する動機付けや、昇進を待ち続けるディクソンの焦りなどを描けたのではなかったろうか。

 ただ、お話は、なるほど面白い。お金儲けの方法やアクシデントなど空港内での生活をかいつまみながらもしっかり描き、国籍の異なる人々が入り混じる雰囲気も出ているし、思わず吹き出してしまうシーンも多い。濃密さを犠牲にして展開の軽さを重視したため、2時間があっという間に感じるほどテンポはいい。
 トム・ハンクスもさすがで、英語を話せない外国人をユーモラスかつ手堅く演じている。キャサリン・ゼダ=ジョーンズもチャーミング。ディエゴ・ルナほか周辺キャストもコミカルだ。

 軽い気持ちで観るのなら、まったく問題はない。けれど「大きさもカタチも異なるさまざまな要素を上手に組み立てて、鮮やかなひとつの作品に仕上げる絶妙の腕」を持つ“映画の積み木職人”スピルバーグの映画としては、少し物足りなさの残る1本である。

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