恋におちたシェイクスピア
監督:ジョン・マッデン
出演:グウィネス・パルトロー/ジョセフ・ファインズ/ジェフリー・ラッシュ/コリン・ファース/ベン・アフレック/ジュディ・デンチ/イメルダ・スタウントン
30点満点中18点=監4/話4/出3/芸3/技4
【劇作家シェイクスピアと令嬢ヴァイオラの道ならぬ恋】
なかなか筆の進まぬウィル・シェイクスピアと、大商人レセップス家の美しき令嬢ヴァイオラ。ふたりは出会ってたちまち恋に落ちる。ウィルは新作を書き上げ、ヴァイオラはその舞台に男と偽って立つ。だがウィルはしがない劇作家で妻子もある身、いっぽうヴァイオラには貧乏貴族ウェセックスとの政略結婚の時が迫っていた。逢瀬はウェセックス卿の知るところとなり、ふたりの仲も舞台の上演も危機を迎えるのだが……。
(1998年/アメリカ)
【窮屈ではあるが映画ならでの楽しさもある】
少し窮屈かな、と感じさせる絵柄だ。もっとも引いた画角でも、せいぜい小さめの宮殿か教会サイズ。劇場内や寝室などを中心にストーリーが進むため、せっかく16世紀のロンドンを再現したり女王陛下が登場したりなどしても舞台の“狭さ”が気になってしまう。また、ウィルとヴァイオラの恋の行方のみを描いているため、そのあたりも広がりを欠く要因。全体としてテレビサイズのイメージを与えてしまう。
が、その狭い範囲での映画としては、なかなかに面白い。狭いわりにカメラがグルングルンと回りすぎて大仰な印象を与えるシーンもあるが、ウィル&ヴァイオラのベッドシーンと舞台稽古を融合させるなど、映画だからこそ可能な見事な構成が冴えている。クライマックスの『ロミオとジュリエット』上演でも同様の手法が採られていて、観ていてハっとさせられる。
喜劇だったはずの『ロミオと海賊の娘エセル』が悲恋の名作『ロミオとジュリエット』として完成してゆく過程や映画と舞台劇の二重構造となっている点も面白いし、随所にシェイクスピア作品の“もじり”が盛り込まれていたり、日本でも英国でも芸術家は河原者だったりと、ニヤリとさせたり感心させられたりする場面も多い。
ヴァイオラと出会ってから猛然とペンを走らせるようになるウィル、ウィルと出会って舞台に立つ表情がキュートになるヴァイオラなどキャラクターの配置と映しかたもいい。
中でも印象的なのが、ヴァイオラの乳母。ウソ泣きも本当の涙もそれぞれにユニークなシーンとして用意されていて「やっぱ乳母とか婆やというのは、お嬢様の行動にハラハラしつつも応援する存在でなくっちゃ」と思わせてくれる。次第に舞台劇の面白さを実感していく金貸しのフェニマンも、見せ場は少ないのに展開をキリっと引き締めてくれるネッド(ベン・アフレック)もいい味を出している。
ただ、ふたりの恋の行方も結局は権力者=女王のひとことで決してしまって、「演劇に賭ける者たち、恋を貫こうとする者たちのプライド」という、この映画の主題とは相容れないエンディングだったように思える。ラストカットでようやく登場するロングショットも、決して本作のテーマに沿ったものとはいえない。
ま、16世紀でシェイクスピア、という字面ほど堅苦しくなく、シェイクスピアを知らなくても大丈夫。テーマがあやふやになってしまったのも観た人それぞれが持つ人生や芸術や恋愛に対する価値観を語るための素材としては許されることなのかも知れない。デートで観て、食事でもしながら恋愛論を語り合うにはいい作品だろう。
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