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2004/12/13

未来少年コナン(上)

監督:宮崎駿
出演:小原乃梨子/信沢三恵子/永井一郎/青木和代/吉田理保子/家弓家正/山内雅人
30点満点中25点=監6/話5/出5/芸4/技5

【最終戦争後に繰り広げられる、少年少女の冒険譚】
 西暦2008年、超磁力兵器を用いた戦争により地殻が変動し、大陸は海へ沈んだ。20年後、のこされ島で、おじいとふたりで暮らす少年コナンは、浜辺に打ち上げられた女の子ラナを見つける。大変動を生き延びた人が大勢いることを知るコナン。が、工業都市インダストリアからの追っ手がラナを連れ去り、おじいも命を落としてしまう。ラナを救うため、まだ見ぬ仲間と出会うため、手作りの船でコナンはひとり海へ漕ぎ出す。
(1978年/日本/アニメ/TV)

【要素それぞれのクォリティの高さが、作品の質を高める】
 TV用作品ではあるが、放映から30年近く経ったいまなお、これを上回るアニメーションは登場していないのだから、取り上げる価値はある。

 とにかく、よく動く。
 第1話の冒頭から動きまくる。海中シーンでは、ハナジロと呼ばれるサメを捉えようとするコナンが、立体的かつスピーディかつパワフルに、縦横無尽に動く。止め絵・ストップモーションや効果線、スローモーションなどを用いるありがちで安易な処理ではなく、リアルタイム・アクションの迫力を重視してひとつひとつの動作をしっかりと描いている
 そのスピリットは全話に渡って徹底される。数班体制で作画がおこなわれるTVアニメでは、エース級のチームが第1話に投入され、第2話ではガクっとデキが落ちることも多い。だが『コナン』では作画監督・大塚康生(ルパン三世 カリオストロの城)を中心とするほぼ単独の班で製作されたようで、最終話まで一貫したテイスト、安定したクォリティで絵が動く。

 画面レイアウトも奔放、そして的確だ。表情のアップから人物が芥子粒のように見えるロングショットまで、動きと展開に応じた画面が作られている。右から左へ、下から上へ、手前から奥へ、奥から手前へとキャラクターを動かし、ときにはカメラが人物を追ったりズームダウンを用いたりして、空間の広がりや遠近感を演出する。海底の船内にたまった空気で息を継ぎ、手についたパンくずを服で拭き、亀裂を飛び越えたらバランスを崩し、ボートの舵を切ればそれにあわせて人物や背景が左右するなど、いちいち芸が細かい。夜や日陰、日照り、ガラス越し、水中、霧の中、地下都市など、場面はバラエティ豊かで、それぞれをしっかりと描き分ける。

 美術表現と音楽表現の豊かさ、ユニークさも見逃せない。
 緑の島、崩壊した文明と廃墟、砂漠と砂嵐、海底、空にいたるまで、背景美術は極上だ。自然の島ハイハーバーと工業都市インダストリアはいずれもグリーンと茶色を基調としていながら、微妙に色の温度感が違っていて、まったく異なる対照的な場として描かれる。こうした色使いの巧みさも印象深い。
 音楽は、楽器や曲のバリエーションは少なめなのだが、スピーディなシーンでは軽快に、緊迫感あふれる場面ではスリリングに、効果的に用いられてストーリーを彩る。ダイス船長のバラクーダ号登場時に流れる「パッパラパー パララッパ パッパラパー」というトランペットは、ああ、こいつら根っからの悪人ではないのだなと微笑ましい。

 こうした技術面、芸術面の下支えを受けて、個性的なキャラクターたちは生き生きと輝く。
 コナンやラナに見せ場がタップリと用意されているのは当然だが、彼らの周辺も楽しい。憎めない悪党+ジコチュー大人の象徴という役割を与えられたダイス船長。コナンの最大のライバルであり、また良き理解者でもあり、悲しい過去を抱えるモンスリー。徹底的に敵役として位置付けられながら浅はかな面も持ち、かと思えば部下の裏切りを知って微かに強張る顔など微妙な表情も見せるレプカ。それぞれが役柄にふさわしいラインやアクションで描かれて、ピッタリと物語の中に収まる。各人に印象的なエピソードやロマンスが用意され、造形も深まっている。
 コナンに小原乃梨子(のび太)、ラナに信沢三恵子(フィオリーナ)、ダイスに永井一郎(波平)、さらには吉田理保子、家弓家正など一級の声優陣を揃えたことも、格式の高さを醸し出すのに寄与している。

 そして、なんといってもジムシー! 風貌や言動といい、顔のすべて、全身のあらゆる部分での演技といい、極上だ。
 第12話「コアブロック」でラナの祖父・ラオ博士がロープで縛られて連れ去られそうになった際、まずコナンが博士に飛びつき、さらにジムシーがコナンの体を踏み台にしてロープを切るといったように、コナンと抜群のコンビネーションを示し、第3話「はじめての仲間」での力比べからもわかるようにコナンと同等のポテンシャルを持ちながら、第14話「島の一日」での豚捕獲ドタバタなど涙が出るくらい笑えるエピソードも用意されていて、全編に渡ってダイス船長とともにコミックメーカーの役割をまっとうしている。終末後世界の殺伐とした空気を一新する立場だ。
 この最強のキャラクターに青木和代(ジャイアンの母。あるいは2時間サスペンスで刑事がアパートを訪ねると、必ず隣の部屋から出てきて「1週間前に出て行ったきり戻って来てませんよ」というオバちゃん)を持ってきたことが、また素晴らしい。湯婆婆の夏木マリ、テツの西川のりおもいいが、その6億倍(推定)はステキなキャスティングだ。

 プロペラ飛行艇のファルコ、2種のフライングマシン、シューターで下のフロアへと移動する三角塔内部、超巨大爆撃機ギガントなど、楽しくて、そしてストーリー展開とも密接に関わってくるさまざまなガジェットも用意されている。タバタバ(たばこ)、作業用機械のロボノイドといったネーミングセンスもユニーク。いったい他の誰が、豚にウマソウ(命名者はジムシー)などというステキな名前を与えるだろうか。[つづく]

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