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2004/12/29

ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還

監督:ピーター・ジャクソン
出演:イライジャ・ウッド/イアン・マッケラン/ヴィゴ・モーテンセン/ショーン・アスティン/ジョン・リス=デイヴィス/オーランド・ブルーム/リヴ・タイラー/アンディ・サーキス/バーナード・ヒル
30点満点中17点=監3/話3/出3/芸4/技4

【最後の決戦と指輪の旅に終止符は打たれるのか?】
 冥王サウロンの軍勢がゴンドールへの侵攻を始める。人間界には確執が残っていたが、ガンダルフらの働きにより共闘の準備を進め、また王の血を継ぐ者として生きる決意を固めたアラゴルンは死者たちを召喚、ゴンドールの都ミナス・ティリスで決戦の幕は開く。いっぽう、指輪を葬る旅を続けるフロドは次第に指輪の力に取り込まれ、スメアゴルの言葉にも惑わされてサムに別れを告げる。果たして、この戦いと旅の結末は?
(2003年/アメリカ・ニュージーランド)

【いいところも悪いところも、すべて表出した完結編】
 いよいよ完結編。このシリーズのいいところも悪いところもすべて表出した感のある仕上がりだ。

 CGのクォリティはまずまず高く、美術やロケーションの適確さもあってスケールのある絵が作り出されている。特にミナス・ティリスは映画史に残る「都市」として記憶されるであろう出来栄え。ここだけを舞台に1本作れてしまうのではないだろうか、と思わせる。
 戦争シーンも迫力たっぷり。これまで見せ場の少なかったレゴラスがスピーディに活躍、投石器だのトロールだの象さんだのも登場してさまざまなキャラクターが入り乱れ、一大スペクタクルだ。
 意外なシーンを描いたオープニングから、いったん鎮めておいて、少しずつ盛り上げ、そして決戦というリズムの作りかたも面白い

 ただ依然としてカメラは動きに動き、人物にも寄り過ぎ。どうにも暑苦しくてかなわない。
 展開の細かな部分にも、恐らくは原作からの省略と整理が上手く機能しなかったのだろう、強引・唐突な部分が残る。アルウェンは前触れなく病に倒れ、いまになって急に呪われた死者の軍が登場し、風のように鷹たちが現れ、悪の魔法使いサルマンはあっさり姿を消す。ガンダルフは無用心で威厳も足りないし、偉い人はみんな正気を失っちゃうし。「え?」と感じさせる部分が多く、思わず拍手をしてしまうような鮮やかな展開というものがないのだ。
 また画面イメージも、日本人にとってはコーエーのゲーム『決戦II』だとか『北斗の拳』(武論尊&原哲夫)あたりを想起させるところが多く、見た目ほどオリジナリティにあふれているわけではない。
 距離感と時間の流れの希薄さも、改善し切れぬままに終わった。ある地点から別の地点までの距離、その間の人物や軍隊の移動が、ストーリーにテンポを持たせるためとはいえ、あまりに性急で、どうも整合性を欠くように思える。

 それと、意外に悲劇性が少ないのもグっとノメり込めない要因だ。名前のついている人物で、死ぬのは4人ほど、しかも脇役。いや、別に死ねばいいってものではなく、指輪に魅入られるゆえの苦しさや悲しみ、運命に対して必死に抗おうとする姿などを、フロドとアラゴルンを軸としタイトな物語に再構成し、印象的なエピソードを交えながら描けばもっとドラマチックな物語になったのにと思う。たとえばホビットがもっと虐げられた存在で、にも関わらずフロドは懸命に使命を果たそうとする、という設定を強調していれば、現状では「指輪を捨てに行きました」で終わってしまっているストーリーに“核”が生まれたのではないだろうか。
 もちろん原作から大きく逸脱するわけにはいかないが、壮大な叙事詩であっても、いやむしろスケールの大きな話だからこそ、そうした細かな部分をしっかり描き込むべきだったろう。各人の動機など内面をもっと掘り下げて欲しかったものだ。

 全体として「なるほど、かなり力を入れて作ってあるし、十分に面白い映画で見せ場も多い。けれどアラも目立つんだよなぁ」という印象を残して幕を閉じる。「終わっちゃうのかぁ、もっと観たいなぁ」よりも「やっと終わりなのね」という感想を強く抱いてしまう。
 このあたりを改善するためには、やはり、1話45分×26話くらいで作られるべきだったろう。そうすれば細かな描写ももっと盛り込めたし、自然と距離感や時間の流れも生まれ、登場人物たちに芽生える信頼関係もしっかりと表現できただろうし、ストーリーに長く付き合うことで観客の感情移入も促される。

 が、それにしても、スタッフにもキャストにも確実に稼げる大物抜きでこれを作ってしまった(どうやら全3作をいっぺんに撮ったらしい)というのは、ある意味で奇跡だ。それだけでも観る価値はある。
 あ、いま思いついたけれど、90分×10本、1本あたりの上映期間は2週間で料金は各1000円、通し鑑賞券は8000円、なんていうシステムにすれば、それこそ歴史に残る作品になったのではないか。
 スケールのデカい続き物というのは、ある意味で映画というより“イベント”なのだから、それくらいの大博打があってよかったかも知れない。

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面白かったですよ。 サムがかっこよかった。 ていうかフロドがびっくりするぐらいだ [続きを読む]

受信: 2005/01/03 15:04

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