モンスターズ・インク
監督:ピート・ドクター
出演:ジョン・グッドマン/ビリー・クリスタル/スティーヴ・ブシェミ/ジェームズ・コバーン/ジェニファー・ティリー
吹替:石塚英彦(ホンジャマカ)/田中裕二(爆笑問題)
30点満点中21点=監4/話5/出4/芸4/技4
【女の子を人間世界に送り返すべく、モンスターたちが大奮闘】
モンスター世界では子どもの悲鳴が電力源。電力会社の悲鳴収集量ナンバーワンコンビ・サリーとマイクは、今夜も子供たちを怯えさせるべく働くが、実はモンスターたちも「子供にさわると死んでしまう」という迷信に怯えまくっていた。ある日、サリーの不注意で幼い女の子がモンスター世界に迷い込んで大パニック。サリーとマイクは女の子を人間世界へこっそり送り返そうとするが、事件の裏には陰謀が潜んでいた!
(2001年/アメリカ/アニメ)
【アニメとしての完成度、アニメを超える完成度】
まず、オープニングが楽しい。オスカーを受賞したテーマ曲をジャズ・テイストのアレンジで聴かせる。スコアは野球映画の名作『ナチュラル』(バリー・レビンソン監督)などで知られるランディ・ニューマン。この始まりかたは幼年視聴者にとってはどうなのか、とも思うが、親がDVDをセットして「ほらー『モンスターズ・インク』が始まるよー」と呼び、子どもがマグカップに入れた牛乳とチョコを持ってテレビの前に落ち着くための時間として、ピッタリともいえる。
人物と事件とを絞り込んでノンストップで見せるストーリーの完成度は高い。マイクとセリアの恋、レポート受取り担当のロズ、雪男など諸要素も盛り込まれるが、それらは本筋と上手く絡み合って、蛇足や破綻がない。
世界各国の家庭の子ども部屋につながる無数のドアがストックしてあって、そこから悲鳴を集めに出陣、という設定もユニークだ。このアイディアは後の展開にも生かされていて、アイディアのためのアイディアになっていないのがいい。
また、まったくの異世界を描く場合、ともすれば説明口調のセリフが多くなってしまいがちなのだが、CMを上手に使うなどしてそれを避けようという配慮も感じられる。すべてをセリフで説明し尽くさずに画面で見せようとする工夫も随所にあった。
キャラクターの造形も申し分ない。朴訥としたサリー、口の達者なマイクという組合せは、コンビものの王道。切実な電力不足に悩むウォーターヌース社長は、たとえば『雨に唄えば』(ジーン・ケリー&スタンリー・ドーネン監督)の映画会社社長など、50~60年代風の雰囲気でニヤリとさせる。モンスターなのに妙に色っぽいセリア、見るからに敵役のランドール、そして抜群の演技力を見せる人間の女の子ブーと、メインキャストは過不足なく、かつストーリーにピタリとハマるよう用意されている。
パンしたり俯瞰したりローアングルだったりと多彩かつ堅実なカメラワークもキャラクターの動きを生かしている(マイクがセリアにぶたれるカットなどが印象的)。セリフや動きに連動した場面転換の妙(イスの生地をアップにして、次のシーンではその生地を着てモンスターに変装したブーとか)など、展開のリズムも良好だ。
惜しいのは、ふたりの主人公以外のモンスターたちの色調や肌合い、容姿などがやや画一的で、バリエーションにも個性にも欠けること。「口から炎を出すモンスターが、読んでいる新聞をクシャミで燃やしてしまう」など設定と演出とが噛み合っている部分もあったが、こうした“設定・デザインを生かした場面”を増やして、モンスター世界にふくらみをもたらして欲しかったものだ。
もっとも、サブキャラクターをサラリと扱った(加えて、背景美術もパステル調にして描き込まなかった)ぶん、サリーが引き立つというメリットはあった。ぬっぺりしたモンスターの中にあって、ほぼ唯一のふさふさタイプ。そのふさふさが猫みたいなので人間の女の子になつかれる、という、これまたストーリーと密接に関わる要素となっていて、しかも、毛が風になびいたり逆立ったりと、いい感じで動く。
サリーの魅力は外見だけではない。目、口、指先に至るまで細かな演技を見せてくれる。相棒のマイクがペラペラと喋っている間や、ブーが用を足しているトイレの前など、手持ち無沙汰な様子が実に楽しい。
ジョン・グッドマン、ビリー・クリスタル、スティーヴ・ブシェーミ、ジェームズ・コバーンといったキャスティングも絶妙だ。日本語版のサリーも、ホンジャマカ石塚英彦を持ってきて抜群。マイクの田中裕二も、何度か観ているうちに違和感がなくなっていく。ただ、英語版ではジェームズ・コバーンが演ずるウォーターヌース社長、できれば小林清志で行ってもらいたかったところだ。
物語は、意外な展開ながら整合性は保ち続けて、ドアのストックルームで繰り広げられるクライマックスへ。クライマックスらしく、もっとハチャメチャになっても良かったと思うが、適度なスピード感と広がり感・高さ感で優秀なデキ。そして、感動的なラスト。これほど爽やかに終わってくれる映画も珍しい。NG集も、延々と続くエンドクレジットに最後まで付き合ってもらおうという配慮の表れとして歓迎したい。
マイクのクルマ好きと同様、サリーにも何かこだわりをもたせたかったなとか、もう数匹は個性的なモンスターが欲しかったなとか、あと1つ2つの要素の追加でストーリーの広がり・奥行きを増しても良かったよな……とも感じるが、現状でも十二分に楽しめる。ストーリー、演出、CG技術などあらゆる点で、間違いなく、世界最高クラスのアニメ作品だろう。
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