Mr.インクレディブル
監督:ブラッド・バード
出演:クレイグ・T・ネルソン/ホリー・ハンター/サラ・ヴォーウェル/スペンサー・フォックス/ジェイソン・リー/サミュエル・L・ジャクソン/エリザベス・ペーニャ
吹替:三浦友和/黒木瞳/綾瀬はるか/海鋒拓也/宮迫博之/斉藤志郎/渡辺美佐
30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4
【引退したスーパーヒーローが巻き込まれた陰謀とは】
政府がスーパーヒーロー政策を廃止、数々の活躍を見せたMr.インクレディブル=ボブも、スーパーレディのラスティガール=ヘレンや子供たちと平凡に暮らしていた。ところがある日、秘密機関のメンバーを名乗るミラージュから仕事の依頼が舞い込む。Mr.インクレディブルは家族に内緒で任務に赴き、体を鍛え始めるが、実は任務はシンドロームが率いる悪の組織の罠。いっぽうヘレンは夫が浮気をしているのではと疑い……。
(2004年/アメリカ/アニメ)
【弾ける楽しさと細かな技術は大画面向き】
痛快。一瞬たりとも疎かにせず、1カットたりとも目の離せない密度の濃い作品だ。
ストーリーそのものは予測の範囲内にあり、どちらかといえばスマートすぎるほどで、もう少し話のふくらみがあっても良かったように思うが、テンポがよく破綻もなく、思わずクスリと笑ってしまうところもふんだんにあって、インクレディブル夫人=ヘレンのやきもきぶりなど家族が互いに寄せ合う思いも十分に描けている。よく練られたシナリオだ。
そのヘレン、静止画や予告編だけでは気づかなかったのだが、実にチャーミング。家族を気遣い、愛を絶やさず、それでいて短絡的にやきもちを焼いたりして、母、妻、そしてオンナとしてのいいところも悪いところもひっくるめた魅力を振りまく。ヘレンの可愛さを観るだけでも、この映画は値打ちモノだ。
そして相変わらず、よく動く。けれど、単に動きのバリエーションが豊富なだけではない。
たとえばヘレンの伸びる手足は、敵を倒すためだけではなく家族を守ったり叱ったりするのにも使われ、母親としてのヘレン像を浮かび上がらせる。自信なさそうな長女ヴァイオレットは、顔を隠していた前髪をやがては上げて快活な笑顔を見せるようになるのだが、ゆらゆらとリアルに揺れる髪に視線を集めさせることで、その変化をさらに印象的なものにする。末っ子のジャック・ジャックは、まだ人間になりきっていない赤ん坊の所作がよく再現されていて、それがラストの見せ場にもつながっていく。フロゾンも、冷気で周囲のものを凍らせるという設定が、彼のアクションや見せ場に結びついている。
最高なのは長男のダッシュ、追っ手を振り切ろうと猛スピードでジャングルを駆け抜けて、目の前に湖が現れるシーンだ。「わっ湖だ! うわぁー」などと安易に叫びを入れたくなるものだが、ここを「わっ、おほっ」だけで済ませるというスピード感を削がない演出が取り入れられている。この1シーンだけで評価はグンと上がる。
設定とストーリー展開と演出と動きが互いに関わっているのが、いい。過去のピクサー作品と比べて“見せて楽しませる”という意識が強くなっている点が、いい。動きや設定がムダになっていないのだ。
また、これらアクションはチマチマせず、画面いっぱいに繰り広げられて迫力もある。
こうしたストーリーや動きはアニメ的なのだが、いっぽうでピントの処理やアングル、照明など実写を意識しているところもあり、けれどそれが必要以上に前面に出ることなく、ふと「細かなところまで描きこんでいるなぁ」と気づいて感心を誘うレベルに統一されている。
立体的なレイアウトに配慮しつつ、ヒーロー家族が身につけるスーツやコンクリートの壁、瓦礫、Mr.インクレディブルの眉間によるシワといったテクスチュアの処理もかなりリアルで、これらはテレビ画面では十分に味わえないはず。劇場の大スクリーンを意識した画面作りだ。
全編において、劇場で映画を観ることの楽しさを実感させてくれる仕上がり。観客を(いい意味で)裏切るストーリー上の工夫やホロリとさせる場面=話のふくらみがもっと盛り込まれていればさらにポイントアップとなるが、体と頭を、イスとスクリーンに2時間預けて、スカっとするには申し分ない作品である。
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コメント
>ヘレンの可愛さを観るだけでも、この映画は値打ちモノだ。最高なのは長男のダッシュ……
自分も同感です。Mrs.インクレディブルの活躍、ダッシュのスピード感がたまりませんね。
投稿: h_m_55 | 2004/12/18 23:38