飛ぶ教室
監督:トミー・ヴィガント
出演:ハウケ・ディーカンフ/フィリップ・ペータース=アーノルズ/フレデリック・ラウ/ハンス・ブロイヒ・ヴトケ/フランソワ・ゴシュケ/テレザ・ウィルスマイヤー/ウルリヒ・ノエテン/セバスチャン・コッホ/ピート・クロッケ
30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4
【友情にあふれた寄宿学校のクリスマス】
ドイツ・ライプツィヒ、合唱団で有名な寄宿学校。転校生ヨナタンは向こうっ気が強く、これまでにいくつもの学校を退学になった問題児だが、同じく問題ばかり起こすマルティン、マッツ、ウリー、クロイツカムらルームメイトとはすぐに打ち解ける。隠れ家にしている“禁煙バス”で偶然見つけた脚本『飛ぶ教室』をミュージカル劇に仕立てた一同だったが、もっとも信頼する合唱団指揮者のベク先生に上演を禁じられてしまい……。
(2003年/ドイツ)
【観ていて楽しくなる画面、少しだけ考えさせる内容】
いかにも単館上映的というか、学校とその周囲で起こる出来事を小さく綴った小さな作品で、「こいつはマッツ。ボクシングのチャンピオンだ」などと律儀にキャラクターを紹介するあたりなどは、やはり児童文学的。日曜の午後6時にNHK教育で放送したくなるノリだ。
が、そこにとどめておくにはもったいない内容でもある。
キャリーケージに押し込められたまま空港に置き去りにされた犬、それを拾っていくヨナタンというオープニングから、合唱団の活動や寄宿生と通学生の対立、各生徒のキャラクターの描き分けなど、学校の状況説明・描写へと、ストーリーはスムーズに流れる。交互に訪れる昼と夜、バッハをBGMとする雪合戦、カットバックなど、全体に重視されているのは、その流れの良さだ。印象的なテーマ曲など音楽の使いかたも、流れの良さに貢献している。
カメラワークやカットの編集・構成も感心の対象だ。フィックスと手持ちを自在に使い分け、見下ろしたり見上げたり、引いたり寄ったりとバリエーション豊かな絵を自然につなげて物語に躍動感を持たせる。適確なフレーミングの中に、生徒を一瞬だけ指差して注意する先生や目的とする部屋の前を行き過ぎようとするヨナタンなど、細かな動作を入れてカットにアクセントをつける。口やかましい寮長のテオが、実はトラブルが起こらないよう下級生たちを気遣っている姿もさりげなく映し出される。クライマックスの一幕のミュージカルも、実に美しい。
子役たちも抜群に上手い。ストーリー・演出も、彼らの姿かたち、表情の作りかた、得意分野に沿ったものとなっていて、生き生きと動く。
なにげないのだが、観ていて楽しくなる画面ばかりだ。
そこに刻まれるのは「自分を見つめよう」「友情を誇ろう」といったメッセージとなるわけだが、事件の連続で筋書きも面白く、あまり説教臭さを感じさせない。
ただ、寄宿学校というロケーション、ショタ好みの美形も多く、なんだか萩尾望都&竹宮恵子チックで、日本人の一定層にはいくぶんファンタジックなイメージを強く与えすぎるかも知れない。悪人が見当たらないのもそうした印象を増幅させる。
いっぽうでベルリンの壁にまつわるエピソードや国境なき医師団なんて話も出てきて、時おり現実も直視させられる。また“大人の都合”で子どもが振り回されることに対する拒否感を示しつつも、クリスマス休暇には笑顔で親元へと帰る生徒たちが描かれ、ヨナタンも養父である船長に「この学校に入れてくれてありがとう」と感謝を示し、生徒の理解者でありたいと願うベク先生を子供たちが受け入れるなど、結局のところオトナの意思や存在なくしては子ども社会もありえないと示唆される。
そんなこんなでテーマ性がやや希薄になり、ちょっとばかり美化されすぎてしまったきらいはある。たぶん子どもというものは、オトナが考えるほど純真でも天真爛漫でもなく、それぞれに悪や憤りを抱え、それに対する罪悪感も持つはずだ。
が、そうした等身大の部分をネットリと描くことは他の作品に任せればいいのだろう。本作でも「子どもには子どもの価値観がある」ということは十分に伝わるし、たとえその価値観が不完全なものであっても、ベク先生とボブのような関係は成り立つのだ。
子供たち独自の価値観の象徴としてヒップホップ文化がフィーチャーされている。個人的にはラップやストリートダンスは音楽でも踊りでもなくファッションだと認識しているのだが、そうやって新興文化に眉を顰める人間にこそ用意された映画である。
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