ファインディング・ニモ
監督:アンドリュー・スタントン
出演:アルバート・ブルックス/エレン・デジェネレス/アレクサンダー・グールド/ウィレム・デフォー
吹替:木梨憲武(とんねるず)/室井滋
30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4
【クマノミ親子の大アドベンチャーアニメ】
カクレクマノミのマーリンは、大の過保護パパ。それが我慢ならないひとり息子のニモは安全なサンゴ礁を離れて外海に飛び出すが、ダイバーに捕まってしまう。愛するわが子の救出のため、決死の旅に出るマーリン。人間の言葉が読めるけれど物忘れの激しいドリーとともに、サメやクジラなど危険一杯の海を進む。いっぽうのニモも、水槽内で出会ったギルらと脱出に懸命。果たして二匹は、無事に再会を果たすことができるのか?
(2003年/アメリカ/アニメ)
【ハラハラとニヤリのジェットコースタームービー】
実は「予告編だけ観れば十分の作品」とタカをくくっていた。確かにストーリーは、パパが子どもを助けに行く、子どもは子どもで脱出に懸命、というシンプルなもの。あらすじは、ものの30秒ほどで述べることが可能だろう。
が、その旅路と奮闘の様子は、サメ、アンコウ、海ガメ、クジラ、カモメ、悪ガキといった諸要素によって、見どころタップリに彩られる。これらのキャラクターやエピソードは、あるときは意外性(魚食を断っているサメなど)をまとい、またあるときは“お約束”(クジラに飲み込まれる主人公)として物語に組み込まれる。ニモが捕らえられている水槽の仲間たちも、最後まで疎かにしない。ディテールの作り込みは実に豊かだ。
考えてみれば冒険譚では“大枠はシンプルに、ディテールは丁寧に”が鉄則。そのセオリー通りの作りが、この映画を、親子の情愛や親離れ・子離れの話というだけでなく、上質で密度の高いジェットコースター・ムービーにも仕立て上げている。
単にスピーディなだけではない。暗闇の恐怖や死別の寂しさ、パパが助けに来ると知って俄然脱出に力の入るニモ、忘れっぽいドリーがニモのことを思い出すフラッシュバック、カニをカモメのエサにしようとするドリーなどに見られるブラックユーモアのセンス、「下へ向かって泳ぐんだ」といった伏線……と、緩急自在。キャスティングの妙ともあいまって、実に生き生きと物語が“踊る”のだ。
絵も、たゆたうヒレ、くねる身体、キラキラした魚影、水の質感など、さすがに一級品。いまのアニメならこれくらい動いて当然だが、単に「キレイな絵」にとどまらず、サンゴ礁の色彩と無機質なシドニーとの対比や各サカナの目の演技など、ストーリー展開にテンポと深みをもたらす演出の一環としてペインティングがなされていることに感心させられる。悠々と動くカメラワークもいいし、画面にマッチする音楽もいい。
ただ、ギッシリ感が疲労も呼ぶ。ドカン、ドスンと圧倒的に、アトラクション的に、スリルと笑いと動きとが画面で繰り広げられるので、父親と子の関係・役割について「浸る」時間が与えられないのだ。特に、セリフが必要量よりも5割ほど多いのはピクサー作品に共通する欠点。緩急の緩をもっと大事にしていれば、さらにメリハリの効いた展開になっていたことだろう。
また「物覚えが悪い」という特性がユーモラスなドリーに比べ、その他の登場魚たちの描き込み不足も少々気になるところ。マーリンは外界におびえてもっと世情に疎い父親として描くべきだったろうし、ニモの片方が小さなヒレもストーリーに生かせたはず。ギルの生い立ちも匂わせて欲しかったところだ。
とはいえ、誰もが楽しめる極上のエンターテインメントであることは間違いない。『モンスターズ・インク』(ピート・ドクター監督)のようなちょっと屈折した雰囲気もいいが、ストレートで善良な『ファインディング・ニモ』も、また善し、である。
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