ドラえもん のび太の魔界大冒険
監督:芝山努
出演:大山のぶ代/小原乃梨子/野村道子/肝付兼太/たてかべ和也/小山茉美/中村正/若山弦蔵
30点満点中15点=監3/話3/出3/芸3/技3
【のび太が作り出した魔法世界に危機が迫る】
もしもボックスで「科学の代わりに魔法が発達した世界」を作り出したのび太だが、この世界でもドジばかり。元の世界へ戻そうとするが、もしもボックスがスクラップに! しかも宇宙の彼方から地球侵略を企てる魔界星が急接近。魔界を研究する満月博士とその娘の美夜子によれば、伝説の5人が地球の危機を救うという。のび太、ドラえもん、しずかちゃん、ジャイアン、スネ夫は立ち上がる。大魔王デマオンを倒すために!
(1984年/日本/アニメ)
【SF青春ドラマとしての熟成へ向けて、確かな一歩】
1980年以来、毎年製作されている映画版ドラえもんの5作目。現在もメインディレクターを務める芝山努が監督を担当して2本目となる。
近年、多くのアニメ作品が大人の視線を意識しているのに対し、『ドラえもん』には純然とした子ども志向が感じられる。
のび太のワガママやハプニング→異世界との接触→ゲストキャラクターや悪党との出会い→仲間といっしょに悪党退治。勧善懲悪、わかりやすさが重視されていて、ストーリーの骨格は毎回ほぼ同じだ。大きなヒネリはなく、見どころとなるのは、ドラえもんのひみつ道具がストーリー展開にどう関わってくるかや、世界設定・キャラクター設定が物語に生かされているか、といった点になる。
その中でも本作は、タイムパラドックスやパラレルワールドの概念を取り入れたり、魔法vs科学という対決図式、エンディングと思わせておいて実は……など、比較的ヒネリのある内容。タケコプターのバッテリー切れ、役に立たない魔法の帽子、いったんビッグライトを出しておいてクライマックスで再使用など道具の使いかたも凝っているし、のび太が使える魔法はスカートめくりだけというお笑いがあったり、それらがストーリー展開にきっちり関わってきたりして、スキのない作りとなっている。
ただ、いかんせん20年も前の作品。画面に奥行きを出すための頑張りやCGへの挑戦なども見られるが、まだまだ平面的。大胆な省略やオープニングからワクワクさせる工夫があるかと思えば「ここは、もっと見せ場を作れたよな」「この展開はちょっと唐突だよな」と感じさせるところもあり、見せ場のバランスやディテールを詰め切れていない印象だ。
この作品以降に『ドラえもん』は大きく進化する。伏線の張りかた、ひみつ道具が物語に果たす役割などが練られ、ご都合主義に陥らないような配慮にも取り組まれるようになる。単純に「ハイ、この道具で解決」とならず、事件を大団円へと導くのはあくまで勇気とチームワーク、といった約束事も徹底されるようになる。また、のび太が試練を乗り越えて泣きながら立ち上がる姿や、いまや映画の名物となった“いいヤツだなぁ、ジャイアンって”という描写も見られるようになり、ドラマとしての面白さ、クライマックスへの盛り上がり感なども向上する。
本作はそこへ至るまでに必要だった、重要なステップといっていいだろう。ヒネリと直球の配分など、ここでの試行錯誤が、『ドラえもん』のひとつの完成形といえる第8作目『のび太と竜の騎士』、思わず拍手したくなるほどの地点に到達した第17作目『のび太と銀河超特急』へとつながるわけだ。
ちなみにタツノコプロの名作『タイムボカン』シリーズでは、のび太役の小原乃梨子が女ボス(ドロンジョなど)、ジャイアン役のたてかべ和也が子分(トンズラーなど)を演じていて『ドラえもん』の録音スタジオとはイジメる=イジメられるの関係が逆転する。『タイムボカン』の現場から『ドラえもん』へと移動すると、たてかべ氏はホっとしたという。
そのキャスティングも、いよいよ変更の時を迎える。寂しさ120%だが、そこから新たなドラえもんワールドが作られる期待も持っていたい。
もひとつちなみに、仲間の中に異分子が入り込み、それが触媒となってチームワークが向上、問題解決の力を得ていくという展開のドラマを『ドラえもん型』と呼んでいいのではないかと考えている。典型が三谷幸喜脚本の『王様のレストラン』だ。
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