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2004/12/08

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー

監督:押井守
出演:平野文/古川登志夫/神谷明/千葉繁/鷲尾真知子
30点満点中23点=監6/話5/出4/芸4/技4

【不条理世界からの脱出なるか!?】
 友引高校学園祭前夜。どのクラスも準備におおわらわだが、同じ1日が繰り返されていることには誰も気がつかない。異状を察知した者が次々と消え、やがて異変は目に見えるカタチで現れはじめ、遂に、あたる、メガネ、面堂らは「衣食住を保証されたサバイバル生活」へと投げ出される。いったい何が……? 高校生活最大のイベントの裏で生まれた不条理世界を舞台に、恋と幸せの本質を問う問題作。日本のアニメを変えた1本。
(1983年/日本/アニメ)

【ケツのアナに喜びと哀しみとを突っ込む物語】
 高校2年の学園祭、わがクラスの出し物は、お好み焼きや清涼飲料水を供する模擬店。模擬店を希望するクラスは多く、抽選制だったが、「食品を扱う場合、クラス全員に検便の必要アリ」という、競争率を下げんとするデマを振り払って実現。女子は調理と給仕、男子は設営と買出し。セーラー服にエプロンをまとったクラスメイトの命を受け、コーラだの小麦粉だの冷凍イカだのを購入するため、商店街目指してチャリを飛ばしたものだ。かなり儲かった。
 便、セーラー服、エプロン、女性からの命令、カネ。下半身直撃、甲状腺を刺激するファクターがゴマンと詰まった場、それが学園祭だ。

 この作品でも「猥雑で、楽しいひととき」としての学園祭と、この楽しさが一生続くなら……という願望が描かれる。それが崩れ去った後にやってくるのは「衣食住を保証されたサバイバル生活」という、またしても甘美な日々だ。
 若者にとっての2つの理想郷、ありえない世界は、丁寧かつダイナミックに、画面上で構築される。
 校内の喧騒と夜の街の静寂との対比、「女子生徒は10時までに下校してください」といったアナウンス、「寸足らずなヤツ」などの時代錯誤的なセリフ、無限に食料が供給されるスーパーマーケット、足元に広がる水や街中で鳴り響く電話のベルといった視覚・聴覚に訴えかけるもろもろ、決して音数は多くないが不可思議さを醸し出すには十分な音楽……。
 アンリアルとリアルがないまぜとなって、この世界が実はありうるもののように、けれど不可思議な禁断の地として、でもそこへ飛び込みたい衝動を喚起するように……。世界構築のために詰め込まれたディテールたるや圧倒的だ。

 世界の構築だけではなく、ストーリーの語り口も一級だ。戦車や日本刀などの小物、個性豊かなキャラクターたち、「明日は学園祭の初日」といった思わせぶりでなにげないセリフの数々が、ストーリーと密接に関わるものとして計算ずくで配置されている。場面転換はテンポもメリハリもよく、高校周辺が世界から切り離される前にキチンと(でもさりげなく)街の広がりを示すカットが挿入され、後に起きる出来事の伏線も省略せず、と、物語映画としての要件を満たすことに注意が払われている。

 そうして、世界観の確かさ、語り口の上手さといった前半部の完成度の高さゆえに、ワクワクしながらも、最後にはキチンとケリをつけてくれるだろうという安心感も抱いて、映画へ、この世界へと入り込めるのだ。なぜこのような世界が創られたかの謎解きは、さくら先生や面堂らに任せることにして。

 が、いっぽうで、繰り返しの毎日では決して享受し得ない進歩・成長という楽しみ、二度と来ない一瞬を生きる切実さこそ、人生の魅力、というのも事実。得体の知れない理想郷で生きていくのを良しとする快楽主義で怠惰な自分の中に、「このままではダメだ」と奮い立つ自分も探さなくてはならない。
 このせめぎあいは、セックスにも通じる。タブーゆえの悦楽と、愛から派生する○○(ネタバレのため伏字)との表裏一体。やはり下半身に襲いかかってくる。
 最終的に主人公あたるも、このせめぎあいに直面する。永遠の快楽を取るか、有限ではあるが未知の毎日を取るか? ここで、作品中の理想郷は主人公が創り出したものではない、という点がポイントとなる。このシャングリラを強引に壊し、日常へ戻る行為は、セックスというよりレイプだ。が、映画内にたびたび登場する白い帽子の少女によって、合意の上でのセックスにできる方法が示唆される。それが“愛”だ。
 ただし、わざわざこの世界を壊してまで愛を選ぶ行為には、後に○○が生じることも自覚しなければならない。それが、あの衝撃的なセリフの意味と解釈したい。

 ストーリーにも演出にも見どころタップリ。楽しめるし、考えさせられもする。であるが、原作やTVシリーズを知らないと、理解できない部分やギャグが上滑りしているように感じられるところも多いはず。万人にはオススメしがたいが、間違いなく日本のアニメ史に残る傑作だ。

 すでに15回は観ただろうか。人生において、もっとも数多く観賞している作品の1つだが、今回はじめて「あ、この世界のキーとなるはずの大切なアイテムを、わざわざ敵側に渡したのは、彼が関西弁を喋るからか」と思い至った。
 観るたびに発見がある。そして、観るたびに下半身を刺激される作品。

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