マスター・アンド・コマンダー
監督:ピーター・ウィアー
出演:ラッセル・クロウ/ポール・ベタニー/マックス・パーキス/ジェームズ・ダーシー/マックス・ベニッツ/リー・イングルビー
30点満点中17点=監3/話3/出3/芸4/技4
【名艦長が率いる英国軍艦とフランス私掠船との死闘】
1805年、ナポレオンが欧州の覇権を握ろうとしていた時代。英国海軍のサプライズ号は母国を遠く離れた南太平洋で、フランスの私掠船(他国の船からの掠奪をナポレオンから認められた船)アケロン号を拿捕する任務にあたっていた。指揮を執るのは負け知らずの名艦長ジャック・オーブリー。だが最新鋭の敵船は重装備でスピードもあり、加えて嵐や事故といったアクシデントにも見舞われ、サプライズ号は苦戦を強いられる。
(2003年/アメリカ)
【よく出来ているのだが、心に残らない】
原作は全20巻にもおよぶ長大なシリーズで、本作はその10巻目にあたるという。その割に「ハショってる」感はなく、ひとつのお話として完結していて脚色の上手さを感じさせる。冒頭の激戦、中盤の嵐とひとときの休息、アクシデント、死、そしてクライマックスと、うまくまとめられた構成だ。
またシーンひとつひとつの出来栄えも素晴らしい。
舞台は9割がた海の上。カメラが船から離れることもほとんどない。だが日照り続きの暑さや波しぶき、肌に当たる霧の冷たさなどがしっかりと伝わり、また海の広さを示すカットも適度に織り交ぜられ、未開の遠洋という雰囲気をよく伝えている。白兵戦では、やや勢いだけで押している印象もあるが、敵味方入り混じっての激しい攻防は迫力がある。
迫力を支えるのが音響効果だ。波、砲撃、きしむマスト、BGM、セリフといった多彩な音がバランスよく織り込まれ、船上のスペクタクルがスリルたっぷりに展開する。
19世紀初頭の軍艦も(知らないけれど)よく再現されているように思えるし、若手を起用したキャストも“この時代っぽさ”を出すことに貢献している。艦長と船医によるチェロとバイオリンの演奏が自然とサウンドトラックとして機能するあたりも面白い。
だが、どうにもスンナリとノっていけないところがある。
ひとつの原因はキャラクターが立っていないこと。オーブリーには名艦長としてのカリスマ性が足りず、「名艦長といわれているものの悩みや失敗も多い人物なのだ」と示すにしては掘り下げが足りない。彼の親友であるドクター・スティーヴンも船における重要度が十分には出ておらず、ガラパゴス島の生き物たちに執着する様子だけがクローズアップされて、一員ではなくお客さんといった雰囲気だ。
若い士官候補生や海兵たちも、ブレイクニーを除けばみんな似たような顔、似たような背格好、似たような服(これは仕方ないか)で、それぞれが生きた人物として描き切れておらず、エピソードのために用意されたという印象が強い。
そのエピソードのひとつひとつも“軸”がハッキリとしていない。
サプライズ号がどのようにしてアケロン号を追い詰めるのかが物語の途中で読めてしまい、その期待通りの展開になるあたりなど冒険活劇の様相を強く示しつつも、哀しい死やアクシデント、オーブリーとドクターの口論など人間ドラマ的な要素や戦場の厳しさの表現も盛り込まれ、やや散漫な印象。中途半端というか、それぞれの出来事の表層を描くだけにとどまっている。「この映画では、こういうことをいいたかった、こういうことをやりたかった」という軸が見えてこないのだ。
結果として、よく出来ているはずなのに心に残らない作品となってしまっている。
何か印象的なエピソードやカット、小道具などが挿入され、それが軸となっていれば傑作に成り得たかも知れないのだが……。
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