17歳のカルテ
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ウィノナ・ライダー/アンジェリーナ・ジョリー/ウーピー・ゴールドバーグ/クレア・デュヴァル/ブリタニー・マーフィ/ジャレッド・レト/ヴァネッサ・レッドグレーヴ
30点満点中18点=監4/話3/出5/芸3/技3
【正常と異常のボーダーに住む少女たちの物語】
高校を出たばかりのスザンナは情緒不安定。過去の出来事と現在との区別が曖昧になり、アスピリンとウォッカを大量摂取して精神療養施設のクレーモアに入ることとなる。そこで、脱走を繰り返すリサ、虚言癖のあるジョジーナら自分と同年代の少女たちと時を過ごすスザンナ。それは、正常な人たちの交流と何ら変わらないもののように思えたが、誰もが確かに心の中に、乗り越えられない壁と潜り抜けられない闇を抱えていた。
(1999年/アメリカ)
【それぞれが考え、答えを見つけるべき映画】
正常と異常の区別なんて、誰にも判りはしない。誰だって心の中に闇を抱え、コンプレックスに苛まれている。結局のところ、それを乗り越えられるか、あるいは自分を誤魔化したり正当化したりできるか、そうして社会に適合できるかどうかが、正常と異常の分岐点となる。
そうした「乗り越える力」は本当に必要なものだろうか? 仮に必要だとしても、それを持ち合わせていないというのは、たぶん、指の先がないとか下半身が動かないとか近視とか、そういった身体の異状・障害と同じで、遺伝や後天的なショックや偶然に因を求められるものがほとんどであるはずだ。
身体の異状・障害なら手術や補助器具やバリアフリーによって適合への道も開かれるが、精神だとそうはいかない。投薬などの治療はおこなわれるものの、最終的には自らの力で克服するしかない。助けは自分の中にしかない。ところが自分の中に助けを見出せないから社会不適合になるんであって、なんとも残酷な話だ。
いや待て、身体に障害のある人だって、最終的には自らの力でハンディを乗り越えていくものなのだから、置かれた立場は同じではないか……。
そうやって、いろいろと考えるための映画なのだろう。恐らく男性と女性とでは見かたも異なるだろうし、生まれ育った環境や自分の周囲にどのような人がいるかによっても、感想は大きく違ってくる。またカウンセリングが一般に浸透しているアメリカと日本とでは、受け止められかたはかなり違うはずだ。
同じ精神病棟を描いた『カッコーの巣の上で』(ミロス・フォアマン監督)とも比較されているようだが、オトコ目線で見ると、むしろ『マッド・ラブ』(アントニア・バード監督)が思い出される。あの映画も「自分の妻や恋人が、もし心を病んだら」と考えさせられた。
抱きしめたい、というのが自分なりの答え。と同時に、それくらいしかできないと自分の無力を思い知らされる恐怖もあり、逃げ出したいという衝動もある。そして、愛の深さとか、自分にとってもっとも大切なものは何かとか、思考のドツボにハマってしまうのだ。
で、ブルーになるのもイヤだし、何が大切かといえば自分自身であり、そこには「映画を楽しむ自分」も含まれているわけで、本作についてもテーマとか内容を考えることから逃げて、映画としてどうだったかという点へと思考を向かわせる。
いろいろと考えさせる手段として、主人公スザンナに感情移入させる作風。カメラは徹底してスザンナの至近距離でまわる。スザンナを演じたウィノナ・ライダー、この若さにして“顔力”や“カラダ力”をあふれさせるアンジェリーナ・ジョリー、他作に比べてかなり淡々としたウーピー・ゴールドバーグら演技陣は、熱演で圧倒というよりは、演技を越えた部分(役柄への没頭)で表情や動作を生み出しているように思える。
過去と現在のカットの切り替えも鮮やかだし、数々のオールディーズを用いた音楽も印象的だ。
全体として、この監督の前作『コップランド』よりも遥かに、人の内面へと入り込むことに成功し、映画としてのまとまり具合も向上していると感じる。
あ、マンゴールド監督作品の5本中4本も観たことになるのか。テーマにのっとった正当な撮りかたをして、破綻がなく、考えさせて、それでいてどこか冷めた視線を持っているこの人の作風、好きなのかも知れない。
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コメント
谷川さん、はじめまして!
「17歳のカルテ」の感想に共感したのでTBさせて頂きました。
これからも読ませて頂きますのでよろしくお願いします!
投稿: マル | 2005/06/07 09:49
はじめまして。ワタクシ、カルと申します。
このたび日本映画の名ラブシーンを紹介するブログはじめ、そのご挨拶でお邪魔させて頂いた次第です(^ ^;
ビデオ&DVDのレンタル、および購入の際に参考になる情報を随時発信していく予定です。
もしよろしければ、ぜひ遊びに来てくださいね!
投稿: カル | 2005/01/25 20:58