グッバイ、レーニン!
監督:ヴォルフガング・ベッカー
出演:ダニエル・ブリュール/カトリーン・ザース/マリア・シモン/チュルパン・ハマートヴァ/
30点満点中21点=監5/話4/出4/芸4/技4
【母の命を守るため、息子はウソをつき通す】
統一前の東ドイツ。アレックスは自由を求めるデモに参加し、警察に捕らえられる。それを知った社会主義一筋の母は心臓発作で入院。幸いにも一命は取り留めるが、昏睡から目覚めるまでに8か月を要した。さらに医師は「こんどショックを与えれば命が危ない」と診断。この8か月の間にベルリンの壁は崩壊していたが、そんなことを母に知らせるわけにはいかない! 真実を隠すべく、アレックスの奮闘が始まった。
(2003年/ドイツ)
【淡々とした中に衝撃も与えてくれる】
ピクルス、コカコーラ、バーガーキングといった生活に密着したアイテムを散らしつつ、時代の流れに翻弄され、あるいは抵抗する人間の愚かさや家族のありかたをナチュラルに浮かび上がらせて、東西ドイツ統一という歴史的な出来事が、実にパーソナルな視点で捉えられる。コメディの雰囲気をまとい、エピソードの1つ1つをユーモラスに語ってくれるのだけれど、同時にいくつもの衝撃を与えてくれる。
かなりよく出来た作品だ。いやもうそれは惚れ惚れするくらいに。
特にガツンとやられたのは、記憶に障害の残る母親がヘソクリの隠し場所を思い出そうとしていったひとこと、そして、街に出て目撃した光景。こういう“思いもかけないショッキングなセリフ、カット”があるから映画を観るのをやめられないのだ。
映像的な仕上がりもスマート。蛍光灯、白熱灯、ネオン、花火、窓外から差し込む街の灯、テーブルランプなど各種の照明を生かして変化のある色合いを作り出し、花瓶や月など背景に映し込むものにもこだわり、早送りなどで軽快さも加えてみせる。当時のベルリンの街並みをCGで再現したらしいが、これに違和感もない。タンゴのリズム、ピアノの柔らかな旋律など、音楽も絵とストーリーにしっかりと馴染んでいる。
登場人物の配しかたも秀逸。アパートの住人、母親が教えていた生徒、映画好きの同僚、さらには赤ん坊まで、ストーリー展開上なんらかの意味を持つ存在として、無理なく物語の中に組み込まれていて「誰かがする何か」が無駄にならないよう構成されているのだ。
強いてケチをつけるとすれば、グっと感情移入できない点か。世界情勢にさして興味のない日本人からすれば、ドイツ統一が市民レベルでどのような意味を持つものかピンと来ないのだ。
また設定も「歴史的事実を捻じ曲げるウソをつき通す」という突飛なものながら、大笑いや感涙を誘う場面は少なく、比較的淡々と、けれどテンポよく、メリハリのあるリズムで進んでいく。映画全体として、なんというか「文法的に正しい言葉」というイメージの仕上がり。あらゆる点でスキのない作られかたなのだ。そのため自分の中の“情”の部分で観ることができず、どうしても「なかなかいい作品だなぁ」と“理”の部分で客観的に接してしまう。
ま、これはキズとはいえないのだけれど。
が、ラスト付近に皮肉も盛り込まれていて、観た後にジワジワと感慨が迫ってくる。本当によく出来た作品だ。
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