オペラ座の怪人
監督:ジョエル・シューマカー
出演:エミー・ロッサム/ジェラルド・バトラー/パトリック・ウィルソン/ミランダ・リチャードソン/ミニー・ドライヴァー/ジェニファー・エリソン
30点満点中18点=監4/話2/出4/芸4/技4
【歌姫と怪人と青年貴族の、哀しき恋】
パリ・オペラ座のパトロンとなった子爵のラウルは、新公演で主役を務めるクリスティーヌが幼馴染みであることに気づく。たちまちふたりの間には恋の炎が燃え上がる。だがクリスティーヌの才能を磨き上げ、主役の座を与えたのは、オペラ座に幻のように棲むファントム。傷だらけの顔ゆえに虐げられ心も歪んでしまった彼は、オペラ座を“我がもの”として振る舞うとともに、ラウルとクリスティーヌを引き裂こうとする。
(2004年 アメリカ/イギリス)
【ヒロインのひとり勝ち】
舞台版は観ていないが、作曲者アンドリュー・ロイド=ウェバー自らが製作にあたり、監督ジョエル・シューマカーが脚本段階から加わって、かなりの時間をかけて作られた映画のようで「オリジナルを生かしつつも、舞台版にはない魅力を放つものにしよう」という、高い志が感じられた。
まず、一気に数十年の時をさかのぼるオープニングが圧巻。このシーンだけでなく全編に渡ってCGが効果的に用いられ、壮麗なセットや衣装も十分に美しくインパクトあるものとしてフィルム上に刻まれて、大画面向きの絵が作られている。
ほぼすべてのシーンがオペラ座の中、しかも舞台の上でのバストショットが中心となるのだが、単調な絵にならぬよう、登場人物が生き生きと輝くよう、カメラはダイナミックに動く。人の配置にも熟考の跡が感じられるし、肌の色合いの違いや人と人との間に漂う空気感を表現すべく照明にも凝っている。
単に舞台を映す=『映像化』にとどまらず、どう映せばより明確にテーマが表現されるのか、面白いストーリーと感じられるのかといった点にまで踏み込んでいるのだ。展開や画面構成を隅々まで計算して『映画化』と呼べるものになっているのだ。
にも関わらず、作品を違和感が覆う。
理由の第一が、セリフのほぼすべてが歌というプランニングにある。ミュージカルとはいえ、ここまで「普通の会話」が少ないのも珍しい。観ているうちに慣れてはくるのだが、いかにも“映画的”な作りとはマッチしにくいものであることは確かだし、登場人物たちの演技を大幅に抑制することにもなっているはずだ。
第二に、各楽曲が英語で歌われる点。全編フランス語やイタリア語にしろとはいわないが、ちょっと不自然。曲のアレンジも現代風味で、19世紀のパリで演じられるオペラの雰囲気を損なっていると感じられる。
第三に(これは製作者サイドの非ではないが)字幕・翻訳のマズさ。それはもう、かなりマズイ。情緒もへったくれもない日本語が並ぶ。歌詞がセリフ代わりになっているため、いたずらに美麗な文言を用いず“わかりやすさ・なじみやすさ”を重視してまとめたのだろうが、だとしても聴かせどころで「I love you」に「君を愛す 心から」はないだろう。
クレジットを見る限り、特に詞の才能のある人が日本上映版のスタッフとして加わっている訳ではなさそうで、字幕製作における意識の低さを感じてしまう。
そして第四の理由が、この映画の最大にして致命的な欠点でもある「てんで魅力のないファントム」だ。
意外にも評判はいいらしいが、ジェラルド・バトラーって、カッコいいか? 少なくとも、クリスティーヌを育て、彼女が密かに心をときめかせる相手としては説得力に欠ける。ロックの要素を取り入れたのはいいとしても、彼が抱える怒りや憎しみばかりがクローズアップされて、哀しみを表現し切れていないし、歌そのものも上手くない。観ている側が「ラウルじゃなくファントムについていけよ」と思えないのだ。美女と野獣ではなく美女とおっさんストーカーになっちゃってる。
別所哲也の子爵と平原綾香の歌姫に、石田純一のファントムみたいなバランス(違うか)。ヒュー・ジャックマンも候補にあがっていたらしいけれど、そっちのほうが良かったんじゃないか。
対するクリスティーヌ役のエミー・ロッサムは、まぶしいばかり。ブレスのたびに上下する胸と透き通る白い肌。それを強調するような衣装と照明とアングル。そしてもちろん歌声。この映画の宝物、彼女がいたからこそ成功した作品ともいえる。
シューマカーの仕事も十分に評価できるが、どうしてもファントムのカッコ悪さが気になって、それと好対照をなすピュアかつノーブルなクリスティーヌのひとり勝ちにも思える、そんな映画だ。
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コメント
コメントありがとうございました。
谷川様の映画評はいつも興味深く拝見させていただいております。
これからもどうぞよろしくお願いいたします!
投稿: tamas | 2005/03/16 08:12
こんばんは。以前、『ディナー・ラッシュ』でTBさせていただきましたtamasです。
字幕問題について私のサイトでもとりあげていますが、やはり「よろしくないな」と感じました。
投稿: tamas | 2005/03/15 00:27