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2005/03/20

花とアリス

監督:岩井俊二
出演:鈴木杏/蒼井優/郭智博/相田翔子/平泉成/木村多江/大沢たかお/広末涼子
30点満点中23点=監6/話5/出5/芸4/技3

【ふたりの少女の、ウソと友情の物語】
 高校へ進学した、幼馴染みの花とアリス。憧れの宮本先輩が頭を打って倒れるのを目撃した花は「先輩は私のことを好きといいました。それを忘れるなんて記憶喪失です」と咄嗟にウソをいい、ふたりは付き合い始める。いっぽう、タレント事務所にスカウトされたものの仕事のオーディションには落ちてばかりのアリス。花のウソがバレないよう“先輩の元カノ”を演じることになったが、彼女もまた宮本に惹かれるようになる。
(2004年 日本)

【きっと毎日が、一大事の連続なのだ】
 映画では、家庭内の出来事から生命の進化まで、実に多彩なテーマが語られる。その撮りかたも、ドキュメンタリーの手法を用いたり、一分の隙もなくシーンや展開を組み立てたり、感性に任せて撮り進めたりとさまざまだ。
 本作は一見すると「女子高生の恋」というパーソナルな出来事を、ナチュラルかつ曖昧に捉えた“なんとなく系”の映画、感覚が先行する『情』の映画に思えるが、実は、隅々まで計算され、多くのメッセージが込められた『理』の映画といえる。
 たとえば、カメラ、ところてん、トランプなどの小道具が、ただ無意味に登場するだけでなくストーリー展開に重要な役目を果たすものとして機能している点が「計算され、作り込まれた映画」と感じさせる所以だ。

 また、駅のホーム、会話する花とアリスの足はバレエの動きで、共通の日常に立脚したふたりの結びつきの確かさが描かれる。あるいは、いくぶんソフトなフォーカスで赤みがかった画面の中、緩やかな坂道はナナメのままで切り取られ、1カットの中の数コマが落とされて、グっと寄りたい場面でもクライマックス以外で花とアリスの表情がクローズアップで捉えられることはあまりなく……と、気持ちも進む方向も移ろいやすい女子高生の不確かさが強調される周到な絵作り。
 最初は調子っぱずれに思える「ケンカしちゃダメだよぉ」が後々になって重い意味を与えられたり、「あ、また円が下がった」に深みがあったりと、思わぬ形で胸に突き刺さるセリフも用意されている。弦を主とする音楽も、学校生活にマッチするBGMとして耳に残る。

 口で演技するハナ=鈴木杏は、偽りは早口で、真実は押し出すようにして話し、目で演技するアリス=蒼井優は、言葉を心の中で押し殺し、しかし雄弁に踊る。このキャスティング/キャラクター設定も面白い
 男前ではあるが得体の知れない存在として「そのまんま」の阿部寛が用意され、社会に出ればアジャ・コングや叶美香のようなキワモノ・ゲテモノと渡り合わねばならないのだと示唆されるなど、カメオ出演の面々の起用にも隠れた思慮が伺える

 さらに興味深いのが、花の渾身の告白とオーディションで踊るアリス、2つのクライマックスで用いられるカットバックだ。花の涙ながらの語りに被せられるのは、落語研究会のモーレツ亭ア太郎先輩が尻を丸出しにして非難を浴びる『粗忽の使者』の高座。アリスのバレエには、雑誌編集者が今夜の食事について電話で話す姿が重ねられる。
 どうでもいいことと、人生の一大事との同時進行。ついでにいえば、花の初舞台は客に逃げられ、アリスの初仕事は蚊に食われる。

 こうしたもろもろはすべて、本作のテーマ……願望を成就させるためのウソ、そこで気づく本当に大切なもの、思い通りにいかないからこそ感じられる人生の“おかしみ・かなしみ”、「誰かの日常のすぐそばで、誰かが一大事を迎えている」という事実……を描くための、欠くべからざる構成要素として機能している。
 本当に隅々まで作り込まれているのだ。

 WEBで公開されたショートフィルム版が抜群の完成度だったため、登場人物が増えて尺も伸びる劇場版には「改悪されるのでは」との不安もあったのだが、主にアリスの描写が増やされたことでかえって全体のバランスが良くなり、密度も濃くなったように感じられた。
 密度が濃い割には、それぞれの要素がカッチリではなくフンワリとした空気をまとっているため『情』の映画に感じられるのだが、とてつもない質量の『理』が詰め込まれた作品、いわば“理によって情を創り出した”映画だといえる。

 甘い、女の子を美化しすぎだなどといわれそうな、あくまでオトナのオトコの目線で作られた作品であり感想でもあるとは思う。だが、奇跡的なまでにエロティシズムが排され(もしくは“ピュア”というカタチに置き換えられ)ていて、「まだ自分が何者かもわからず、懸命に何者かであろうとする高校時代(と、遅まきながら何者かがわかりはじめ、そこから脱却したり突き進んだりしようとする29~30歳にかけて)が、もっとも女性は美しい」を持論とする我が身にとっては、まるで宝石箱をのぞいているような気分を味わわせてくれる、キラキラした映画である。

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コメント

はじめまして。yas0233と申します。
谷川さんの記事、とても共感するところが多く、引用、トラックバックさせていただきました。

これからも面白い記事をたくさん書いて下さいネ。

投稿: yas0233 | 2005/04/02 11:13

谷川さんの洞察力は素晴らしいです。他の映画のコメントもとても丁寧で、谷川さんに感動しました。トラバさせていただきましたので、よろしくお願いします。from ワーズワースの悪戯

P.S. 間違って二個トラバりました。後で一個、削除願います。すいません。

投稿: こじ老 | 2005/03/29 01:10

「隅々まで作り込まれている」
全く同感でーす♪

投稿: distan | 2005/03/20 17:30

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