« スウィングガールズ | トップページ | ギルバート・グレイプ »

2005/03/26

海猿

監督:羽住栄一郎
出演:伊藤英明/加藤あい/海東健/伊藤淳史/香里奈/藤竜也
30点満点中17点=監4/話3/出4/芸3/技3

【潜水士を目指す若者たちが“人を助ける”現場に直面する】
 海難事故における人命救助の最前線を担う『潜水士』。その資格を得るため、海上保安庁の各管区から14名の若者が集まる。ダイバーのマスターライセンスを持つ仙崎は、同じくキャリア豊富な三島と張り合うように厳しい課題をクリアしていく。しかし仙崎のバディ(相棒)である工藤は弱気な落ちこぼれで、何かにつけて仙崎の足を引っ張る。工藤の生真面目さに訓練生たちは心を打たれ、彼を助けようとするのだが……。
(2004年 日本)

【マズイ点もあるが、感動も誘う佳作】
 突っ込みたくなるところは、いろいろとある。
 たとえば「漁師をやっている父や兄に万が一のことが起こったとき、俺が助けたい」と語る工藤に、それまでワイワイと騒ぎ、ともすれば工藤を蔑んでいた訓練生たちが“ほだされる”様子や心の揺れは、この物語のキーとなる部分でもあり、もっと丁寧かつ印象的に描くべきだった。工藤の決意を聞く13人の思い詰めた表情のアップをほんのちょっと増やすだけでも、ずいぶんと印象は変わったはずだ。
 クライマックスも、考えてみればかなり都合のいい展開。遭難した仲間を助けようとする過程では、確かに「信頼」という重要なテーマは前面に出ているものの、もう少し科学的な裏付けや伏線も効果的に使われていたなら、と思う。

 また仙崎と、ファッション誌編集者の仕事に挫折する環菜とのロマンスには、やはり物語のテーマである「なりたいものに、なるための歩み」を盛り込もうとしているのだが、その挫折っぷりや悩みっぷりが幼くて、テーマの表現も舌足らずとなってしまっている。
 さらに、このふたりのキスシーンは、あまりに唐突で、本作と同じように「いまキスしたいと思ってるでしょ」というセリフをキーワードとするキスシーンが素晴らしくチャーミングだった『スウィート・ロード』(トッド・ホランド監督)と比べると、かなりのダサダサだ。

 ただ、トータルでのまとまりは、まずまずといえるだろう。特に前半1時間は、ダイビングの基礎知識や海上保安庁の仕事、潜水士の訓練内容などに関して必要以上に説明しすぎることを避け、なるべく“描写”することに主眼を置いてグイグイと突き進む。後半も、やや強引だが怒涛の展開で、海中シーンはCカード保有者が「息を呑む」というくらいのリアリズムを持って観客に迫る。
 舌足らずで青臭いまま終わる仙崎と環菜の恋も、着替えている環菜に背中を向けたまま話し続ける仙崎の姿に、彼の優しさや根っこにある倫理観が垣間見えたりして、青臭さに好感を覚えるような作りになっている。

 嬉しかったのは、原作でも特に印象的な“退避勧告に従わないバカな若者たち”のエピソードが挿入されていたこと。仙崎たちの「何のために、この仕事をやっているんだろう」という葛藤を描き出すと同時に、見るものにも保安庁職員や潜水士の存在意義を考えさせる重要な挿話であり、本作の製作サイドがしっかりと原作を読みこなし、テーマを消化していることを感じさせる。

 ちょっとBGMが大仰過ぎたり、画面が微妙に上下して「カメラを肩に担いで中腰で歩くのは、さぞかしキツかったんだろうね」と思わせるシーンもあるが、映画全体にスピード感・緊迫感を与えるべく音楽やカメラアングルも奮闘し、存分に盛り上げてくれる。
 演技陣では、この年代の俳優特有の“クサさ”が逆にハマっていた源教官役・藤竜也の抑揚のある台詞回し、登場シーンは少ないながらスパイスとして効いている五十嵐監査官の國村隼が、手堅く渋くストーリーを引っ張っていた。

 ホームラン級の映画というほどではないし、まだまだ詰め切れていない部分も残している。が、2時間を飽きさせず、何より14名の訓練生と教官たちの“熱さ”がしっかりと滲み出ていて気持ちのいい作品である。

|

« スウィングガールズ | トップページ | ギルバート・グレイプ »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 海猿:

« スウィングガールズ | トップページ | ギルバート・グレイプ »