インファナル・アフェアII 無間序曲
監督:アンドリュー・ラウ/アラン・マック
出演:エディソン・チャン/ショーン・ユー/アンソニー・ウォン/エリック・ツァン/カリーナ・ラウ/フランシス・ン/フー・ジュン
30点満点中19点=監4/話4/出4/芸4/技3
【4人の男の運命を狂わせた、あの“事件”の始まりを描く】
ラウとヤンの邂逅を描いた前作から、時を遡らせた続編。香港マフィアの首領クァンが暗殺され、幹部たちによる跡目争いの激化が懸念される中、クァンの次男ハウは鮮やかに求心力を発揮、組織をまとめ上げる。だが黒社会を一網打尽にしようと画策するウォン警部は、組織に潜入捜査官ヤンを送り込み、非合法な手段にも訴える。いっぽう黒社会から警察へと送り込まれたラウも着々と昇進するが、ボスの妻マリーへの想いを募らせていた。
(2003年 香港)
【前作のテイストを踏襲し、前作の面白さをさらに増す仕上がり】
息をもつかせぬ展開でラストまで一気にたたみかけた前作と同様、今回もテンポ良く、スピーディに見せる。
フラッシュバックやスローモーション、青みがかった絵作りなど画面作りのシャープさ・スタイリッシュさは前作のほうが上だったが、カメラは寄ったり引いたり動いたりと、相変わらず各シーン/カットは変化に富む。香港の裏通りも空気感をそのままに捉えていて、臨場感たっぷりだ。そのいっぽうでしっかりとストーリーも語る。サウンドトラックの使いかたは、前作よりスマートになったように思える。
全体として、前作の雰囲気を踏襲しつつ、前作と同等以上のデキをキープしているといえるだろう。
抗うことのできない運命に翻弄される男たち女たちの姿、登場人物それぞれの心の闇が、ストーリーとしての面白さを支える。
異母兄弟、家族愛、ボスの妻への恋慕、敵同士の信頼感、男と女、ボスへの畏怖、さらには友情など、やや人間関係を煩雑にしすぎたきらいはあるものの、それらはストーリーを動かすモチーフとしてしっかりと整理・配置されている。
異母兄ハウからの信頼に複雑な表情を見せるヤン、報われぬことのないマリーへの愛に苦悩し、遂には己が心を押し殺してしまうラウ。自分の独断専行によって、本作の主題である『無間地獄』が作られてしまうことに悔恨を隠せないウォン……。
この「キャラクターと人間関係の描き込みに見られるバランス感覚」は前作に引き続いての本シリーズの大きな魅力だ。しかも、セリフなどで状況を“説明”しすぎることなく、トランプや写真などの小道具をアクセントとしながら、出来事や表情を“描写”することに努め、各キャラクターの心情や人間関係をひとつずつ解きほぐすように物語が展開して、ピリピリとした緊張感が最後まで持続するのがスゴイ。
中でも大きな発見は、サムのキャラクター設定の面白さ。前作ではあまり魅力的な人物ではなかったが、本作では、なかば自暴自棄になったり、自分の関知しないところで進められる策略と成り行きとによってボスの座へと上り詰めていったり。皮肉がたっぷりと詰め込まれていて興味深い。ここで得た達観というか「悪事に対する開き直り」と、我が身にふりかかった不幸、ウォン警視との奇妙な信頼関係とが混沌となって、前作のキャラクターが作られたのだろうと想像させる。
主要キャラクター4人だけでなく周辺が分厚いことも、このシリーズの楽しさ。たとえば小太りで下品なサムに、ひたすら尽くす美女マリーという関係がユニークだ。「なんで、あの人が、あんなオトコに?」という設定が、かえって「裏社会で生きる男女って、そういうものかも」とリアルに思え、またマリーに横恋慕するウォンのモヤモヤをも増幅させる。
さらに印象に残ったのがハウ。温情と冷酷さを併せ持つ切れ者ボスとして大活躍を見せる。クァンの死後、新たなボスの座を狙う4人の幹部たちをハウがひとりずつ“落とし”ていくシーン、あるいは裏切り者たちを始末していくシーンは、背中がゾクゾクするほど面白い。
パートIIとしては異例なほど素晴らしいばかりでなく、1本の映画として見ても完成度は高い本作。が、まだまだ解決していない点も多く、3作目が実に楽しみだ。
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