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2005/04/21

インファナル・アフェアIII 終極無間

監督:アンドリュー・ラウ/アラン・マック
出演:アンディ・ラウ/トニー・レオン/レオン・ライ/ケリー・チャン/アンソニー・ウォン/チャップマン・トウ/チェン・ダオミン
30点満点中21点=監5/話5/出4/芸3/技4

【あの“事件”の後に何が起こったのか?】
 潜入捜査官ヤンの活躍で、サムの麻薬組織は壊滅。ラウはヤンが警察の身分を取り戻すことに尽力するが、安穏とはしていられなかった。自分と同じようにマフィアから送り込まれた存在、ラウの過去を知る人物がまだ警察内部にいるのだ。しかも保安部のヨン警視がスパイの洗い出しに取り組んでいるらしい。内務調査室へと戻ったラウは、ヨン警視を監視、捜査の手が自分に及ばないよう画策する。そして、ヨン警視とマフィアとの接点をつかむ。
(2003年 香港)

【すべての謎と想いにケリをつける、素晴らしき完結編】
 前2作の完成度が高く、同時に風呂敷を広げすぎた感もあったため、正直なところ「うまくまとめられるのか?」という心配はあった。だが、降下していくエレベーターに憤怒の仏が重ねられ、無間地獄への道を暗示する冒頭で早くも、それが杞憂であることを直感する。
 その通り、あまりに面白すぎるデキ。このシリーズの集大成と呼ぶにふさわしい仕上がりを見せてくれた。

 現在と過去、時間が頻繁に行き来するうえに人間関係が複雑で、ときに幻覚までも映像化しているため、ともすれば理解しにくくなる物語なのだが、動きを表現したいときにはスピーディなカット割りと編集で、心情を伝えたいときにはグっと寄って……と、状況に応じた適確な絵作りがストーリーの理解を助け、感情移入も誘う。
 また過去2作は“息をもつかせぬ”テンポの良さを特徴としていたが、今回はさらにスリリングで説得力のある描写に磨きがかかった。
 たとえば、なにげなく取り出した名刺が果たす役割。
 あるいは、監視カメラのディスプレイに描かれた赤いラインの意味。
 すべてを見せず、説明過多にならず、それでもきっちりと「ああ、そういうことか」と納得させる鮮やかな演出だ。
 特にシビレたのが、中盤、ヨン警視の行動を監視するラウが、遂に秘密をつかみ、行動へと移すシークェンス。ほとんどセリフなしに進み、それでもラウがいらだっていく様子が手に取るようにわかり、観るものの胃もまた締めつけられる。
 着席を促したり汗ばむ顔を拭ったりといった細かな手の動きが、各シーンの流れの良さや緊迫感を生み出すアクセントとなっていることにも感心させられる。

 全編にわたるスキのなさは『24 TWENTY FOUR』(スティーブン・ホプキンス監督)シリーズに似ているが、あちらはリアルタイムゆえのハイテンションを重視し、またその構造に助けられてもいたのに対し、こちらは自在に時間軸を切り替えながらも曖昧さを排し、過去と現在とがつながってゆく緊張感を巧みに描いている。
 とにかく濃密なのだ。いま物語のどのあたりだろうと、時計を見ることすら許さないほどに。

 キャラクターのユニークさは相変わらずだ。ヨン警視はもっと濃くタップリと描く手もあっただろうが、過去2作には登場しなかった「冷徹で策略家だが生真面目」というキャラクターが効いている。大陸マフィアのシェンという得体の知れない人物も、展開に重要な役割を果たす。影の薄かった“バカのキョン”にも活躍の場が与えられた。サムは、何度も死にかけたゆえに開き直りの残虐性を身につけた。
 本シリーズの大きな魅力である豊潤な人間関係も、依然として全開。1作目で抱いた「サムとヤンの『実は信頼しているわけではない』主従関係」という印象を裏付けるサムの裏切りというエピソードが挿入され、カウンセラーである美人女医リーとヤンとの心の交流もユーモラスに紡がれる。このカウンセリングだけでなく、終盤では、潜入捜査で身も心も疲れ果てたヤンにも意外な“ひととき”があったことが明らかにされる。
 人と人との関わりが、緻密に、情感豊かに張り巡らされる。

 だが今回、そうした撮りかたや人間関係は、すべてラウの生きざまを描き出し、彩るために用意されているといえるだろう。
 投げつけられるコーヒーカップで知るラウの焦りをはじめとして、彼のいらだちが本作のキー。愛する女性との幸せな生活、自分の能力をフルに活用できる警察組織という場と与えられた地位、それを守るために「善人になりたい」と願う彼は、妻と別れ組織の中で行き場を失いかけてもなお、その想いに執着し続ける。安心して生きるために必要な“手段”だったはずの「善人になりたい」という想いが、いつしか生きる“目的”に変わる、といったところだろうか。
 そして彼は、壊れていく。リー医師の診察室、ヤンとともに横たわり、涙ながらに告白するラウ。妄想の中で突きつけあう銃口。同じ「潜入者」という境遇ゆえに起こるラウとヤンの心とのシンクロは、ラウにとっては狂気といらだちを増加させるものにしかならなかったわけだ。リー医師の携帯電話に残されたラウからのメッセージには、寒気さえ覚える。
 第1作で印象に残った「ケーブルを替えてオーディオの聴き比べをするシーン」が今作でもわずかではあるがフィーチャーされ、ラウとヤンが「本当はわかりあえる友になりうる存在ではなかったか」と思わせるだけに、余計にラウの末路が痛々しく感じられる。また、ヤンが前2作より表情豊かに描かれて、ラウの苦悩との対比がこれでもかとばかりに印象づけられる。ふと、ヤンとは違い、誰もラウの理解者になれなかったこと、ラウ自身も他人を一切理解していなかったことに思いが至る。
 まさに無間地獄。無事な明日などないことを思い知らされる。本シリーズのテーマ曲ともいえる「失われた時間(被遺忘的時光)」に、流れる涙を禁じえない。

 不満はある。BGMの使いかたはやや騒がしくなったし、第1作に比べて劇場映画ならではのスケール感は薄まったようにも思える。ヨン警視という存在の登場は、唐突といえば唐突だろう。
 だが、ふたりの潜入者、彼らと関わる多くの人物とその人間関係、それらが形作られ破壊される約10年にも及ぶ歳月を、叙事詩としても抒情詩としても、もちろんサスペンス映画としても、極上の味を持つものにまとめあげてくれたことは確か。

 観ている間に何度も身震いしてしまう、素晴らしき完結編である。

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コメント

よくぞここまで張り巡らせた、
よくぞ綺麗に決着させた、
本当にそう思った作品でした。
やっぱりこの3がないと1と2がおちないと思ったです。
観て良かったです(笑)

投稿: chishi | 2005/05/17 20:01

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