オールド・ボーイ
監督:パク・チャヌク
出演:チェ・ミンシク/ユ・ジテ/カン・ヘジョン/チ・デハン
30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4
【誰が、なぜ、俺を15年も監禁したのか!?】
娘への誕生日プレゼントを買っての帰途、何者かに誘拐され、ビルの一室らしき場所に監禁されたテス。ようやく解放されたのは、15年も後のことだった。その間、テスには妻殺しの汚名が着せられ、娘は外国人に引き取られてヨーロッパへと渡っていた。失意の中でテスは、日本料理店で出会った女性ミドとともに謎解きを始める。誰が、なぜ……? やがて、彼自身は忘れていた過去の出来事が明らかになっていく。
(2003年 韓国)
【バランスに優れ、見どころも多い秀作】
背中に突き刺さる木っ端、釘抜きで捻じ抜かれる前歯、口の中で踊る活きたタコ、血の染み着いたカーペット……。なるほどタランティーノが好みそうな、ディテールに凝ったバイオレンスが散りばめられている。しかもスプラッタ・ムービーほどには嫌悪感を誘わず、凡百のアクションものより刺激的という、絶妙なバランスの“暴力”だ。
そう、全編を通じてのバランス感覚こそ本作最大の特色だろう。
まず、過度の説明が排される。テスが誘拐されるシーンは描かれず、監禁場所がどのように運営されているのかも省略。解放後にテスが初めて会話を交わす「犬を抱いて自殺を図る男」の、その自殺の原因も明らかにされない。かと思えば、犯人ウジンの動機や、どのような仕掛けを施したのかといった重要な事柄は、時間を割いてコッテリと描き出す。
テスはギョーザを食べたくない理由にはハッキリと言及しないが、後になってそれが謎解きのキーとなり、観客は得心する。監禁中のトレーニングシーンはほとんどないが、解放後のケンカに圧勝することで、テスが取り組んだ鍛錬の重みがわかるようになっている。
この“描く・描かない”のバランス感覚が絶妙であり、いちど蒔いたタネを後でしっかりと刈り取る配慮も示してくれて、物語は謎を残しながらもスピーディに進み、トータルで見た場合のまとまりの良さも生まれている。
演技陣も良。テス役のチェ・ミンシクは、15年のビフォアとアフターを見事なまでに演じ分け、けれど根っこには不変の思いもあることを感じさせた。アクションシーンでの、まさに独学でケンカ技術を磨いた「カッコよくはないが、強い」ことを表す身体の動きもいい。
ミドを演じたカン・ヘジョンも、本作における輝きのひとつ。濡れた瞳と思い詰めた唇。一途さが、どれほど人を切なくさせ、いかに艶っぽくさせるかを体現する。その想いを秘めるがゆえに、ベッドシーンはそこいらのアダルトビデオの何百倍もエロティックだ。
映像的な見どころも、ふんだん。各カットは湿り気や暑さや血の匂いが感じられる赤茶けた画面に統一され、その色使いは地味でありながら作品テーマをしっかりと支える。カレンダーを介したシーン展開、格闘ゲームのようなカット割りで見せるヤクザとの闘い、回想シーンに入り込んで思い出を辿る緊迫感、ある人物の最期においてカメラが果たす残酷な役割など、縦横無尽の絵作りで観るものを楽しませる。
弦をメインとする音楽も、画面とベストマッチ。やや現実離れした設定のストーリーを浮わついたものにせず、ズシリと重心の低い映画にしてくれている。
そして、復讐の無意味さ、復讐を終えた後に待つ空しさが描き出されるわけだが、それ以上に心に迫るのが“現在(いま)の大切さ”という、もうひとつのテーマ。クライマックス、すべてを知ったテスの命を賭けた懇願は、人としてというよりも「いま誰を愛しているか」を何よりも考えたうえでの、男としての心の叫びだったのではないだろうか。
また、ある小道具が、ある人物の“価値”を示すものとして極めて印象的な使われかたをする。鳥肌の立つ名シーンだ。
幾分セリフに頼っている部分もあり、またオチにもう少しスマートさが欲しいとは思う。歴史に残る作品かと問われれば答えに窮する。
が、どこかが突出しているわけでも、何かが極端に足りないわけでもなく、演出・ストーリー構成・役者・音楽・美術・撮影など各要素が極めて良好なバランスでまとめられていて、そのそれぞれに引き込まれて時間があっという間に過ぎていくことは確か。いい映画だ。
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