猟奇的な彼女
監督:クァク・ジェヨン
出演:チョン・ジヒョン/チャ・テヒョン
30点満点中21点=監5/話4/出5/芸3/技4
【凶暴な彼女に振り回される、優しき男の物語】
酔っ払って倒れた女性を介抱した大学生のキョヌは、翌日「私をホテルに連れ込んで何をした?」と彼女に問い詰められる。なんとか弁明を信じてもらったものの、またも彼女は泥酔。酔っ払いは嫌いなキョヌだが、彼女が恋人と別れたばかりだと知って、なんとか心の傷を癒してあげようと決意する。が、彼女の口癖は「ぶっ殺す」。すぐに拳を上げ、他人にまでケンカを売る始末。果たしてキョヌの、献身的な愛の行方や、いかに。
(2001年 韓国)
【とことん情に訴えかける不思議な映画】
前半戦。妙に展開がノンビリしていたり、かと思えば小気味よくシーンを転換してみたり、いきなり脱走兵と出くわしたり、ギャグはベタだったり……と、ストーリーも演出も練れていない。カメラワークはテレビドラマ風。音楽や効果音、その使いかたにも古めかしさを感じてしまう。ほとんどドリフのコント的なノリなのだ。キョヌが「この人の心を癒したい」と思う背景や“彼女”のキャラクター設定も不安定で、とにかく説明不足・説得力不足。全体として野暮ったく、未完成の印象を与える。
ところが、そんな野暮ったさとか「そんなヤツいねーだろ」と思わせるキョヌの振る舞いに接しているうちに、まったくもう仕方ないなぁと、デキの悪い子どもを見ているような気になってくる、というのが、布石。
野暮ったいからこそのリアリズムというか、映画の語り口も登場人物もスマートでないからこそ「こんなにジタバタしているふたりには幸せになって欲しいなぁ」などという思いが知らず知らずのうちに芽生えるのだ。観ている側は、まだそのことに気づかないのだが。
そんな静かでジワリとした感情移入が、彼女のお見合いやふたりのピクニックシーン、つまり、どんな思いでキョヌが毎日を過ごしていたのか、粗暴な彼女の心の奥底にどんな葛藤があったのかが提示される場面で、一気に弾ける。
号泣です。ていうか、セリフすら聞き取れないくらいの嗚咽です。止まりません。2回観て、2回とも同じところでボロボロ泣いてしまいました。
ここへきて、あれほど野暮ったかったカットやシーンが、すごく愛しいものに思えてくる。このふたりを好きになっている自分に気づき、いかに愛らしい映画であるかを実感することになるのだ。
後半戦。野暮ったさもいつしか抜け、携帯電話やバラの花など小道具が意味を持つものとして輝き始め、クライマックスには映画的な技法(あるいは映画的な技法を逆手に取った技法)で観客をギクリとさせる仕掛けも用意されていて、たたみかけるようにエンディングへと至る。その演出の鮮やかさとテンポの良さが感動を増幅させてくれる。
デキの悪い子の、突然の飛躍。意識的なものなのか自然とそうなったのかはわからないが、抜群の構成といえるだろう。
もちろん、ヒロインを演じたチョン・ジヒョンの存在も大きい。決してとびきりの美人ではないのだが、立ち姿や歩く姿は精一杯に凛として、表情は豊か。暗い大学の校舎の陰の向こう、陽射しの中に立ってキョヌを待っている様子にはキュンとさせられてしまう。
野暮ったい中に魅力があふれ、野暮ったさが魅力ともなっている作品。計算ずく=『理』の要素も持つが、比類なき完成度とスキのなさで心の中の『理』の部分に徹底して訴えかけてきた『グッバイ、レーニン!』とは対極にある、『情』の部分に訴えかける映画ともいえる。
初めての発表会で『アマリリス』とかを弾く子がいて、ミスタッチも多いうえに平板な演奏なんだけれど、一途な姿に引き込まれて、後半になると少しずつ指も動きだし、よしよしいいぞなんて思ったりして、弾き終えた後の満足げな笑顔にまた心を打たれる。そんな雰囲気の作品である。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント