イルマーレ
監督:イ・ヒョンスン
出演:イ・ジョンジェ/チョン・ジヒョン/チョ・スンヨン/ミン・ユンジェ
30点満点中16点=監4/話2/出3/芸3/技4
【時間を超える手紙が結ぶ、不思議なラブストーリー】
海辺に建つ家“イルマーレ”をあとにするウンジュ。彼女は、この家の次の住人へと宛てた一通の手紙を残す。「私への手紙が届いたら、新しい住所へ転送してください」と。ところが、それを受け取ったのはイルマーレの最初の住人であるソンヒョン。なぜかウンジュの手紙は2年も時をさかのぼったのだ。時間を超えた手紙のやりとりで、次第に心を通わせ合うふたり。けれどウンジュには、どうしても忘れられない人がいた。
(2001年 韓国)
【叙情的かつ真っ当かつ煮込み不足のタイムパラドックスもの】
自分的アジアまつりのはずが、すっかりチョン・ジヒョンまつり。
それはともかく、とにかく印象に残るのは独特の画面。本作の主役ともいえる“イルマーレ”がグレーの海をバックにして佇む様子、おなじみチョン・ジヒョンの「シルエットだけでも切ない」立ち姿、小屋から駆け出す子犬のコーラ、手紙が出し入れされるポスト、別々の時間にふたりが楽しむ遊園地……。アジア温帯圏特有の(しかも海辺なので)湿っぽさや墨っぽさがあって、手放しに「すべてが美しい」とはいえないのだが、アングルとフレーミングと色合いにこだわった、まるで絵葉書のようなカットの連続だ。
かといって、ヴィジュアルだけが先行する映画ではない。ストーリーの語り口も独特で優れた構成にもなっている。“説明”よりも“描写”に重きを置いているというか、まず出来事の描写があり、それに対して「どういうこと?」と疑問を抱かせてから、それを説明する場面やセリフを持ってくるという仕掛けを好んで取っている。
時に説明不足にも思えるが、逆に、若年層向けのラブストーリーにありがちな「余計なことまでクドクド説明する」愚を犯していないことに好感を覚える。自然と画面に馴染む音楽、主演ふたりのナチュラルな表情とそれを生かすカット割りなどもあいまって、実にいいテンポ(あるいはIQの高い人向けの、ちょっと考えさせるリズム)でストーリーは進んでいくことになる。
ただ、お話そのものは甘い。ワンアイディアをここまで叙情的かつ興味深く仕上げたことは評価できるし、時間を超える交流だからこそ起こりうる諸々の出来事……本当に2年の時を越えて手紙のやりとりをしていると気づくシークエンス、我慢しきれずウンジュに会いに行ったソンヒョンが彼女に無視されるシーン、ウンジュが失くした録音機をソンヒョンが見つける場面……なども適確に盛り込まれていると思う。
が、真っ当すぎてヒネリがない。特にクライマックスからエンディングにかけては、まったく伏線もなくストレートに展開し、それまでの凝った展開が霧散してしまうほどのアッサリ風味を残して終劇となってしまう。ケリのつけかたが都合良すぎるのだ。
時間というものをもっと意識させる「何か」や、よりヒネったタイムパラドックスの処理、このエンディングに「なるほど」と思わせる説得力、それらがあれば、もっともっといい作品になったはずなのだが。
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