LOVERS
監督:チャン・イーモウ
出演:金城武/チャン・ツィイー/アンディ・ラウ/ソン・タンタン
30点満点中18点=監4/話3/出4/芸3/技4
【任務を超えた愛が、3人を導く先】
唐の時代、捕吏の劉と随風は反政府組織・飛刀門を撲滅する任に就いていた。遊郭で人気を集める盲目の踊り子・小妹が前頭目の娘だと知った彼らは小妹を捕らえ、飛刀門の居場所を問いただすが、彼女は口を割ろうとしない。そこで劉は、随風に小妹を救出させ信用させるという策を打つ。ところが、この作戦を知らぬ朝廷からの追っ手がふたりへと迫る。仲間を斬らねばならなくなる随風。さらに随風は、小妹を愛するようになる。
(2004年 中国)
【画面もストーリーも様式の世界】
イーモウ監督の前作『HERO』よりも抑制されているものの、相変わらず緑や青など鮮やかな色を全面に撒き散らした絵作り。
画面内の人の配置がぞんざいな場面もあって「オール・グラフィカル」というわけではないのだが、チャン・ツィイーの立ち姿、地面に突き立てられる竹槍の角度、木々の中で立ち止まる金城武など“ビシっ”と決めるカットは確かに目立って、ひと目で誰の作品であるかがわかる作家性の高い仕上がりとなっている。イーモウ様式とでも呼ぼうか。
今回はストーリーも様式的、悪くいえば「ありきたり」だ。
特に、起=任務の始まり、承=本当に愛してしまう&追っ手と戦わなければならなくなるという前半には「どこかで観た」感が拭えない。回想を重ねながら真実が明らかにされる『HERO』の構成と比べてメリハリに欠け、展開の強引さも感じる。
転=主役3人の心情や隠された過去・関係が明らかになり、結=それぞれの悩みと、それぞれが出した結論……と、後半一気に物語が収束していくのは面白い。中でも飛刀門の隠れ家近くの竹林でのシーンは、小妹がどのようにして「仙人指路」の技を磨いたかという過去と、その過程で行き交った“愛”がわかる、本作での名場面だろう。
が、どうもストーリー全体が枠の中に収まりすぎていて窮屈。3人以外の周辺描写や無駄・遊びの要素が極端に少ないため、お話に広がりがないのだ。全体として昔話的というか、起承転結がハッキリしすぎている=様式的な印象を与えるのである。
ただ、この薄いシナリオ(内容のというより、物理的な薄さ。いや実際ストーリーを書き起こせば800字くらいですんでしまうだろう)の料理方法こそが、本作のキモ。
投刀の動きを追うカメラワークや合成、スローモーションやおなじみのワイヤ・ワークを駆使してバリエーション豊富な殺陣が作り出される。細かなカットを適確な編集でつなぎ、スピード感も抜群だ。盲目だからこそ起こること、竹を武器にするからこそ可能な攻撃といった説得力のある描写も頻出する。
つまり「林の中、追っ手に追われるふたり」という短い一文を、どう映像化しているのかを味わう、そんな楽しみがある映画なのだ。一行で書けてしまうシーンなのに、5分から10分しっかりと作り込むこだわりと手腕こそがイーモウ様式の本質といえるだろう。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント