ストレイト・ストーリー
監督:デヴィッド・リンチ
出演:リチャード・ファーンズワース/シシー・スペイセク/ハリー・ディーン・スタントン
30点満点中15点=監3/話2/出4/芸3/技3
【はるか長い道のりを、老人とトラクターが往く】
73歳のアルヴィン・ストレイトは、兄が倒れたとの知らせを受ける。些細な口喧嘩が原因で10年も仲違いしている兄と和解しなくてはと思い立ったアルヴィンだが、自身も杖なしでは歩けず、眼が悪いためクルマを運転することもできない。そこでアルヴィンは、唯一の移動手段であるトラクターで荷台を牽き、500kmも離れた兄の家を目指す。夜には火を焚き、急坂を越え、自転車に追い抜かれ、彼の長い旅路は続く。
(1999年 アメリカ)
【さまざまな表情を味わう映画】
タイトル通りの真っ直ぐな話。ただひたすらに、トラクターによる道程が描かれる。
とはいえ“動的”ではない。
家出娘や自転車乗りの若者などと出会い、彼ら・彼女らにアルヴィンは何かを与えたり、何かを受け取ったりするのだが、セリフの量は抑えられ、発せられる言葉のほとんどがアルヴィンの人生観や歩みを説明することに費やされている。旅に出てからはストーリーというよりも「エピソードの連続体」といった趣だ。
しかもズドンと響いてくるようなものではなく“しみじみ”といった内容で、回想もほとんどなければ、アルヴィンの過去を映像的に見せる部分もない。映画の中でアルヴィンと出会う人々と同様に観客も、アルヴィンの言葉に耳を傾ける、という性質を持つ構成となっている。
スタートからゴールまで10~12週は要しているはずだが、季節の移り変わり感は乏しく、景色もそれほど変わり映えせぬままで、画面の大半はアルヴィンの姿。
500kmも移動している割に、実に“静的”な映画だ。
では何が見どころかといえば、表情だろう。アルヴィンを演ずる老ファーンズワースについては、年輪たっぷりの顔はいうまでもなく、その手や指、立ち姿からも“表情”を感じ取ることができる。彼と関わる人々も、それぞれに背負う人生を表情としてにじませ、季節感はないものの空や道も表情を変える。
夜の暗いシーンでもそうした表情だけはしっかりと捉えられていて、映画的な衝撃やワクワク感は皆無なのだが、丁寧に、表情の移り変わりや深さを画面に刻み込もうという思想のもとに作られていて、映像的な仕上がりを重視した映画といえそうだ。たとえば『おじいちゃんとトラクター』とでも名付けて、環境ビデオとして使いたくなる雰囲気を持っている。
そういう観点では一貫したテイストを保っている。もちろんアルヴィンの行動や彼の語る人生観を通じて、家族の意味、生きることの意味を伝えたいという意図はあるのだろうが、それを押し付けることはない。
実に静かで、ひなびていて、淡々としたリズムを刻む映画である。
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