ザ・ファーム/法律事務所
監督:シドニー・ポラック
出演:トム・クルーズ/ジーン・トリプルホーン/ジーン・ハックマン/エド・ハリス/ホリー・ハンター
30点満点中15点=監3/話3/出3/芸3/技3
【所属事務所の悪事に挑む若き弁護士】
ハーバード・ロー・スクールを優秀な成績で卒業したミッチは、多くの誘いの中から、もっとも条件のいい南部メンフィスの法律事務所を選んで就職する。が、その事務所にはマフィアのマネーロンダリング役という裏の顔があった。FBIから捜査協力を打診されるミッチ。手を貸せば投獄されている兄を救うことができる。だが事務所を裏切ればマフィアを敵に回すことになる。板ばさみの中、ミッチの一世一代の賭けが始まる。
(1993年 アメリカ)
【ストーリーを追うことに終始して、映画的な楽しみがない】
前半は、ゆったり。カメラワークや照明、ロケーションなどに際立ったものはなく、良くいえば手堅い作り、悪くいえばそれほど予算が潤沢ではないTVドラマ的な地味な画面構成だ。
ただし冗漫になりすぎることのないよう、主要人物が登場するタイミングに気を配り(弁護士ばかりいっぺんに出てきたら混乱するもんね)、デイヴ・グルーシンによるジャズテイストのサントラで展開を引き締め、次のカットで出てくる音を直前のカットのお尻から始めるという手法を多用してリズム感のある編集となっている。
FBIの言う通りにするか、事務所に忠誠を尽くすか、その板ばさみからの打開策をミッチが思いついてからの後半の展開は、一気にスピードアップ、前半のペースに馴れた観客を戸惑わせる。ミッチの思惑を十分に把握させないようにして、ラストのカタルシスをより増幅させようという配慮なのかも知れない。
と、まずまず練られてはいるものの、どうもスカっとしない仕上がり。
とにかくストーリー(というか状況)を追うこと語ることに終始して、必要最低限のことはしっかりと画面で伝えてくれるものの、それ以上の深みを出す工夫がない。伏線とその解決、印象的なカット、それらが相まってもたらされる映画的な鮮やかさが皆無なのだ。
また、これだけ豪華なキャスティングでありながら、飛び抜けて光っている人もいなければ演技合戦になることもなく、キャラクターの奥深くに入っていくこともない。まぁ、人間ではなく事件を描く映画なのだと割り切れば、たとえ各登場人物の描き込みが浅くても、エド・ハリスはこういう役がハマってるよなぁとか、ウィルフォード・ブリムリーは相変わらず渋いよなぁとか、トム・クルーズはトム・クルーズだけれど奥さん役のジーン・トリプルホーンはナニゲに上手いよなぁとか、今回のジーン・ハックマンは意外と美味しくないよなぁとか、それなりに楽しい役者配置ではあるのだが。
パートナー/アソシエイト、司法取引、守秘義務、弁護士倫理などアメリカ法曹界独特のシステムや価値観は、日本人にとってはわかりづらいものだろう。法廷モノの最高傑作『ザ・プラクティス』で勉強している身には問題なかったが、それでも、ミッチがやったこととやらなかったことの法律的な線引きはどうなっているのか、細かな部分の説明はやや不足気味だったように思える。
とりあえず「ラストに何か待っている」という期待は裏切ることなく、かといって想像以上の驚きを与えることもない。手堅くはあるが、それ以上でもない。悪くはないが、良くもない。そんな映画である。
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