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2005/05/16

ラン・ローラ・ラン

監督:トム・ティクヴァ
出演:フランカ・ポテンテ/モーリッツ・ブライブトロイ/ハイノ・フェルヒ
30点満点中16点=監4/話3/出3/芸3/技3

【愛する彼を救うため、ローラは走る】
 電話の向こうからローラの恋人マニが、怯えた声で叫ぶ。「お前が来なかったからだ!」。ローラがクルマで迎えに来なかったせいでマニは仕方なく地下鉄に乗り、ボスに渡すはずの金を列車内に置き忘れたのだという。「昼までに10万マルクを用意しなければ殺される」と途方にくれるマニ。彼を救うべく、ローラはアパートを飛び出す。3つの金策をハイテンションかつハイスピードに、ユニークな手法で描いた“ランニングムービー”。
(1998年 ドイツ)

【アイディアを上手に映像表現した作品】
 ひたすら“走る”という行為を中心に据え、スリリングかつスピーディに物語を紡ぎ、息つくことを許さぬテンションでラストまで突き進む
 ローラが金策に奔走し、それが上手く行かないと判明するやスタートに戻って2つ目(TVゲームでいうところの「2周目」か)のエピソード、さらに3つ目のエピソードと連続させるとともに、各エピソードに微妙な時間のズレがあり、そのズレがストーリー展開にもズレを生んでいくという構成もユニークだ。

 ちなみに1マルクは50~80円。東京とベルリンの物価格差を考えると(ビッグマックは日本よりユーロ圏のほうが高いらしいが)10万マルクというのは800万円くらいの価値になりそうだ。数分で用立てるのは難しいが、ローラのように浅はかなら「親が銀行屋だから、なんとかなるかも」と考えてしまう額。それがまた、ハラハラを誘う。

 俯瞰、あるいは移動撮影、はたまたクローズアップと変幻自在のカメラワークもストーリーのテンションを高めてくれて面白いし、ややマットでヌケの良くない画面の色調も、本作の(いい意味での)マイナーさを助長して成功している。
 打ち込み一本槍のサントラは耳障りだが、その無機質な音がもたらす焦燥感も演出の一環と考えれば、許容範囲、いやテーマに即したものといえるだろう。

 ただ、想像と現実とを混沌とさせたままグイグイとストーリーを進める手法といい、電話への寄りの絵といい、犯罪と不条理と焦りと偶然と「計画通りに事は運ばない」という事実をテーマとしている点といい、どうしてもウォシャウスキー兄弟の出世作『バウンド』との類似性が気になってしまう。そして『バウンド』のほうが、全体を貫くスタイリッシュなトーンと色気、罪悪感と悩殺とのバランスなどにおいて、本作よりも上だ。
 またオチの付けかたも弱いというか、本編の「もー、どーにも止まらないテンション」からすると都合も行儀も良すぎる感がある。

 ま、そうしたキズを除けば、登場人物も製作者サイドも若さゆえの暴走を見事に成功させている。実験的な手法ばかりが前面に出て中身の薄い作品は好きではないが、本作は、ワンアイディアを、ストーリー展開の点でも映像表現の面でも上手に処理した、新しいタイプのシチュエーション・ドラマとして評価できる1本だ。

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