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2005/06/25

ペイチェック 消された記憶

※今回の感想はネタバレを含みます。

監督:ジョン・ウー
出演:ベン・アフレック/ユマ・サーマン/アーロン・エッカート/ポール・ジアマッティ/コルム・フィオール/ジョー・モートン
30点満点中14点=監2/話2/出3/芸3/技4

【記憶を消された男。俺の過去に何が起こった?】
 産業スパイまがいの仕事をこなしている天才的エンジニアのマイケル。報酬は巨額だが、機密保持のため、仕事に従事した期間の記憶を消されるのが代償だ。オールコム社から依頼された3年にも渡る大仕事も、無事に成功。だが、記憶を消された彼の手元に残ったものは、1億ドル近い報酬を辞退するという彼自身のサインが入った書類と、クリップやライターといったガラクタのみ。なぜ、何が起こったのか?
(2003年 アメリカ)

【深遠なはずのテーマを、バカアクションに仕上げた作品】
「バカ映画だな」
「ミもフタもない……」
「いや、大枠はシッカリしているから必ずしもダメダメってわけじゃない。でもバカアクションってことは確か」
「結論を急がないでください。まず『大枠はシッカリ』のあたりから」
「冒頭、ある企業の依頼でライバル会社の新製品を分解、技術を盗み出すという仕事をマイケルは成功させるわけだ」
「機密保持のために記憶を消すという仕事上の約束事とか、マイケルの天才性などが説明されますよね」
「真っ当な導入部だよ。記憶消去のヴィジュアル化も面白いし。次に、どう考えてもヤバそうっていう仕事を請けて、一気に時間は飛んで3年後。案の定トラブルに巻き込まれる。FBIに逮捕され、オールコム社にも命を狙われ、どうなってるんだろう、と。彼の手元に残ったガラクタは、いったい何なのだろう、と本編へ引き込んでいく」
「それをヒロインといっしょに解決していくことも含めて、セオリー通りの展開ですね」

「過不足ない展開だよな。つまり大枠はシッカリしている。ところが」
「謎めく展開になるはずが……」
「すぐに読めちゃう。実は彼は『未来を見る』という研究をしていて、3年後には窮地に陥ることがわかったから、一見ガラクタに思えるけれどピンチから救ってくれるモノを19個残したんだと」
「マイケル自身も、早々とそのことに気づきます。映画スタートから30分くらいでした」
「ミステリアスな展開を期待していたのに、いきなり肩透かし」
「でも、そのままミステリアスに引っ張っても『未来を見た』という設定はバレバレですから」
「うん。だから、そこから先はガラクタを使ってどのようにピンチを脱するのかという『アクション映画』にするしかなかったわけだ」
「あるいはアクション・アドベンチャーゲームのノリというか」
「そうそう、手にしたアイテムを使ってクリアを目指すんだよな」

「アクション映画として観れば、スローモーションがあったりスピーディだったり青っぽくてクールな絵だったり、いかにもジョン・ウーっぽくて十分に楽しめますよね」
「でも新鮮味はないぞ」
「クリップとかライターとか、それぞれのガラクタの生かしかたは、それなりに説得力があったように思います」
「クルマのキーはメルセデスじゃなくてBMWじゃなきゃダメだ、とかね。けれどガラクタは19個あるから、少なくともそれを全部使い切るまでマイケルは死なないって観客にはわかってるんだよ。その通りになるから真っ当ではあるんだけれど、ひとヒネリが欲しかったなぁ」

「そして、クライマックスへ」
「いよいよバカ全開。ヒロインのレイチェル、生物科学者なのにサブマシンガンを持った警備員を倒しちゃうもんね。まさにバカアクション。オチも説得力があるようでない、爽快なようでいて腑に落ちない。バカだから、未来を変えることに躊躇なんかないし、ブラックな展開にもアンハッピーにもならない」
「未来を強引に変えて、めでたしめでたしへ持っていきます。あ、これってネタバレになっていませんか?」
「映画そのものがネタを上手く扱っていないんだから、いいんじゃないの。せっかく『何が起こったのかという過去を探るはずが、実は未来に何が起こるのかが重要な話』という皮肉・カラクリがあるのに、そのあたりを生かさず、ひたすらアクションに徹しているわけだし」
「恋人の記憶がないことの切なさもありませんしね。記憶モノでは不可欠な要素なのに」
「で、未来なんか知らないほうがいいと気づくのは、学校。未知へと向かって生きている子供たちの姿に、マイケルが『ハっ』となる。いかにも安直」
「安直ですねぇ」

「ほかにも、記憶消去の際に『脳の温度が42度になると植物状態になる』という設定とか、記憶消去前にマイケルとキスする女性とか、前半に伏線っぽいものがあるんだけれど、てんで意味がない」
「42度になってもピンピンしていますしね、マイケル」
「FBIの捜査官も影が薄いし、全体に『あんまり深いことを考えずに作りました』というバカっぽさが漂っている映画だよな」
「これ脚本書いたの『トゥームレイダー2』の人ですね」
「道理で……」

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