第十七捕虜収容所
監督:ビリー・ワイルダー
出演:ウィリアム・ホールデン/ドン・テイラー/オットー・プレミンジャー/ロバート・ストラウス/ピーター・グレイヴス
30点満点中17点=監4/話3/出4/芸3/技3
【捕虜収容所に紛れ込んだスパイを探し出せ】
米軍の軍曹ばかりが集められた、ドイツの第十七捕虜収容所。前線には戻りたくないと語るセフトンは、ドイツ兵との取引、酒の密造、
賭博の開催など要領よく立ち回り、便利屋として重宝がられるいっぽうで、仲間たちから疎んじられてもいた。脱走計画が失敗に終わったとき、
敵兵と通じているセフトンにはスパイの嫌疑がかけられ、リンチの標的となる。自暴自棄になるセフトンだったが、
真のスパイに近づくヒントを発見する。
(1953年 アメリカ)
【ストレートをストレートと感じさせない魅力】
どうも舞台っぽいなぁと思ったら、案の定ブロードウェイ劇の映画化。狭い収容所内だけでストーリーが進み、
かっちりとしたフレームの中に登場人物6~7人が収まって会話を交わすなど、動きの少ない絵も多い。
ストーリーの広がりも、あまりない。脱走の失敗、セフトンに対する疑いと嫌悪の深まり、真のスパイ探しと追求……と、
物語はほぼ一直線に進み、そのメインエピソードと関係のないところで並列進行するサブエピソードには乏しい。太い幹+枝葉の少ない木、
といった感じだ。
が、不思議と退屈ではない。
理由の第一が、ストレートだけれどストレートと感じさせない、いわばムービング・
ファストボールとでも評することのできる脚本・演出だ。
枝葉が少ないぶん、お話は軽快に進むわけだが、数少ない枝葉=サブエピソード(アニマルらによるコミカルな会話やシーン)
を収容所の日常を伝えるものとして機能させ、そこにセフトンを絡ませて、彼が置かれている「欠かせない存在ではあるが嫌われ者」
という立場を描き出す。枝葉がバランスよく刈り揃えられているのである。
また重要な秘密に偶然気づく、というのはドラマで頻出するシチュエーションだが、それを「偶然の立ち聞き」
という安直な処理ですませる作品の、なんと多いことか。本作でも立ち聞きという手法が用いられるのだが、
立ち聞きにいたる経緯に説得力があることが嬉しい。まず疑われて不貞寝するセフトンの姿があり、不貞寝のおかげで
「いままで見えなかったはずのものが、なぜか見えるようになった」ことに気づき、そして疑念を深める。ちゃんとした流れがあるというか、
ストーリーが「意味のあるシーン」の連続で構成されているのだ。
本作が撮影された50年代当時はレンズの種類やカメラの機能も限られ、編集技術や光学的な処理などにも限界があったはずだが、 その中で、人物のバストショット~フルショットに収容所全景を収めるロングショットを適度に挟んだり、 オーバーラップやフェードアウトを用いたシーン転換など、 精一杯に画面にリズム感を与えようとしているのも楽しい。粗末な木製ベッドが軋む音など、 意外とサウンド面もクリアだ。
ユーモラスなキャラクターたちも、本作の魅力。
シニカルなセフトン、帰国してハリウッド女優と会える日を夢想するアニマル、愛想のいいドイツ軍のシュルツ……など、
個性的に描き分けられた登場人物たちが、ちょっとヒネったセリフで語る。最高にユニークなのはオットー・
プレミンジャー演じるシェルバッハ所長。憎憎しげな声の出しかたといい、
上司と電話で話すときだけブーツを履いてカカトをカチっと鳴らすところといい、少ない登場シーンで強烈な印象を残す。
派手でもなく、大きくもなく、ビューティフルというわけでもない。でも、ウィットを利かせながらしっかり丁寧に作られた、
観ていて安心感のある大樹のような、気持ちのいい作品である。
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