SURVIVE STYLE 5+
監督:関口現
出演:浅野忠信/橋本麗香/小泉今日子/阿部寛/岸部一徳/麻生祐未/貫地谷しほり/神木隆之介/津田寛治/森下能幸/Jai WEST/荒川良々/ヴィニー・ジョーンズ
30点満点中16点=監2/話3/出4/芸3/技4
【奇妙な人々の身に起こる奇妙な出来事】
殺しても殺してもパワーアップして蘇ってくる妻と激闘を繰り返す男、レコーダーを持ち歩いてアイディアを吹き込み続けるCMプランナー、催眠術をかけられて自分が鳥だと思い込んでしまった父とその家族、空き巣を繰り返す享楽的な若い男の3人組、ロンドンからやってきた殺し屋と通訳……。奇妙な人々の奇妙な物語が微妙に交わる。数多くのヒットCMを生み出した多田琢(企画・原案・脚本)と関口現による劇場公開作。
(2004年 日本)
【映画ではなく、スタイル。恐るべきは浅野忠信?】
バラバラに思えるエピソードが収束していく手際の良さはジョビジョバの独壇場。そのジョビジョバの元リーダー・マギーさんをフィーチャーしているくらいなのだから、もう少し“つながりかた”を練って欲しかったと思う。本作では、ラスト(第1エピソードと第3エピソードのつながり)の鮮やかさだけが突出している感じだ。
5つのエピソードの出来不出来に差があるだけに、余計に「つながり=構成で挽回できればなぁ」という思いを抱かせる。サイケデリックでポップな色使い、シャープな画面、打ち込み中心のチープな音楽などで全編のテイストを統一し、手間ひまをかけて作られている印象もあるのだが、それが持続しないというか、エピソードごとに微妙にギクシャクしてしまっているのだ。
アンデッド妻(橋本麗香)とその夫(浅野忠信)との激闘は、前半の、ムダに1カットが長くカット数が少ないというダメ映画独特の“ゆるさ”が、後半へ向けてCGやワイヤーワークを駆使して徐々にスピードアップ、コミカルでスリリングな雰囲気を作り出していく。
冒頭の夫の独白は不要に思えるし、戦隊ヒーローものっぽいチープな絵作りも気になるが、殺害方法に応じて妻のパワーアップ内容が変わったり、一軒の家(別荘?)の中を舞台とすることで「夫婦の物語」であることを強調したり、一人称視点のカメラにちゃんと意味があったり、「ああなるほど」と気づかせるところがあったり、どこか切なさも漂っていたり……と、もう少し掘り下げれば、単なるスラップスティックにとどまらない、1本の作品として通用しそうなエピソードに仕上がっている。無言で通す橋本麗香の美しさも、いい。
CMプランナー(小泉今日子)の話は、ヒットCMとクズ・ボツCMは紙一重ということは伝わるものの、多分に制作サイドの楽屋落ち的な雰囲気。
そのCMプランナーによって死を迎える催眠術師(阿部寛)と、おかげで催眠術をかけられたまま生活せざるを得なくなる会社員(岸部一徳)のエピソードには、アットホームな温かさと冷ややかな空気が同居し、「どうすればいいの」「どうにかなるさ」という、まさに本作のテーマである“生きていく方法論”も表出している。
が、ストーリー以上に印象深いのが演技陣。キモいのが快感ですらある阿部寛、ホントに鳥に見える(インコを2羽飼っている私がいうのだから間違いない)岸部一徳のクルックー顔、妻役の麻生祐未もトボけた味が心地いいし、娘役・貫地谷しほりも堅実だ。息子を演じた神木くんも、相変わらず可愛いだけでなく、彼の持ち味のひとつである“超絶的に上手いナレーション”を聞かせてくれる。
空き巣3人組(津田寛治/森下能幸/Jai WEST)のエピソードはデキの悪いコントのようなイメージ。ニヤリとさせてはくれるが、場当たり的な3人による場当たり的な風景に終始する。ま、それが狙いだとは思うのだけれど。
これら各エピソードを結ぶのが、ロンドンからやってきた殺し屋(ヴィニー・ジョーンズ)と、その通訳(荒川良々/「よしよし」と読むことを初めて知った)の物語。これまたコント的であり、正直、荒川良々という存在の特異性は、卑怯というか「キャラが前面に出ているだけだろ」とも思うのだが、ここでは真っ向から卑怯に徹し、そのキャラクターを生かすエピソードとなっていて、かえって清々しい。ふたりのモデルはトルシエとダバディとのことだが、加えてジャイアンとスネ夫にも見えたりして、いずれにせよ、その意固地で不条理な暴力性がまた心地良かったりする。
ただ、これは映画ではない。じゃあ何かといえば、タイトル通り“スタイル”だろう。
こんな関係を描きたい、こんな絵を撮りたいといった個々のアイディアが視覚的スタイルとして作られ、あるいはテンポや空気感という雰囲気的スタイルとなり、それらが十分に溶け合わないままにまとまった、という感じの作品だ。
もう1つ、浅野忠信が出ているだけで「浅野忠信が出ている映画」とカテゴライズされ、そのスタイルに押し込められるような気がする(まったくの濡れ衣かも知れないが)。
浅野忠信に作品が食われてしまう、という意味ではなく、恋愛映画、アクション映画、「泣きたいときはコレ」、「現代社会の病巣を鋭くえぐる問題作」といった並びと同列に「浅野忠信の出演作」が来る。なんというか、ちょっとアナーキーな田舎ものが憧れる東京の象徴とか、別冊宝島とか、そういうイメージ=スタイル。いや、わかる人は少ないだろうけれど。
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