春夏秋冬そして春
監督:キム・ギドク
出演:オ・ヨンス/キム・ジョンホ/ソ・ジェギョン/キム・ヨンミン/ハ・ヨジン
30点満点中17点=監4/話3/出3/芸4/技3
【季節はめぐる、やがて僧は人生の意味を見つける】
春。山奥の湖に浮かぶ小さな古寺に、幼き僧と老和尚が暮らしている。他に人の気配はなく、岸との交通手段は一艘の船だけ。まだ進むべき道を持たぬ幼子に、老僧はひとつひとつ生きることの意味を教えていく。夏、幼子は少年となり、療養のため寺を訪れた少女に心をときめかせる。秋、青年期を迎えた彼は人生の蹉跌と怒りを知り、鎮まる心を手に入れる。冬、壮年にさしかってようやく見つけ出した己の道。そしてまた春がやってくる。
(2003年 韓国/ドイツ)
【時はめぐるが、決して繰り返しではないことを願う】
出来事をそのまま受け取れば、救いのない話だろう。
閉じられ、交流もない世界で人として生きられるわけもなく、かといって人と交われば悩みは尽きないが、外界への憧れを殺すことなどできない。丘の上の石仏の肩から見えるのは、幼い頃には寺を中心とする狭い範囲だけだったが、成長してから思いを馳せるのは、その反対側に広がる世界だ。
しかし道に背くわけにもいかず、結局は、ただ欲を滅して、さまざまなことを“さだめ”として受け入れて生きるほかない。そうした静かな心を手に入れるためには経典(必ずしも宗教である必要はないと思うが)を通じて自らを見つめ直さなければならない。石を背負って野を駆けるなど自らに厳しい訓を課し、怠惰に流されることを防ぐために「必ず門を通って出入りしなければならない」といった細かなルールで律する必要もある。
そして、道へと導いてくれるのは絶対的な存在。あるいは教えを押し付けてくるわがままな存在としての“老”だ。
ま、印象や感想は観た人それぞれだろうが、そういったことをじっくり考えさせようと、ゆっくりと時間は流れ、丹念に情景が描かれる。
セリフや音楽は最小限に抑えられ、登場人物も8人のみ。だが、そのぶん深く深く主人公と老僧の心へと潜り込むことができる。カメラはあくまで傍観者としての距離感を保つが、ときに主人公や老僧の心に寄り添うように近づいていく。老僧の顔に刻まれたシワが、ただ年のせいではなく苦渋の意味を持つことも捉える。そうして、愉しみ、怒り、哀しさといった感情がしっかりと描かれるわけだ。
その背景にあるのは抜群のロケーション。心情とともに移り変わる四季は鮮やかで、寺の中から外へと目をやると、じりじりと景色が移動し、浮遊する感覚を誘う。
わずか1億円の低予算で撮られたというが、枠を前後左右へ広げようとせず、ひたすら奥へ奥へと深さに徹したような作り。ただし、狭い範囲の物語であるにもかかわらず“人”や“社会”を感じさせもする。丸一年かけて四季を撮影した丁寧さも奏功している。
そして、また春がやってくる。季節はめぐり、人の命もめぐるが、決して繰り返しではないはず。そう願いたい。
と、ここまで書いて「ああ『イデオン』と同じか」と思い至る。観賞後に襲いかかる衝撃は明らかに『イデオン』のほうが上だが、本作も人間の普遍的テーマ=「輪廻と、それに抗おうとする人のあがき」を誠実にストーリー化・映画化していて、心を揺さぶられる。佳作。
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