キッチン・ストーリー
監督:ベント・ハーメル
出演:ヨアキム・カルメイヤー/トーマス・ノールストローム/ビョルン・フロベリ/リーネ・ブリュノルフソン
30点満点中17点=監4/話3/出3/芸3/技4
【キッチンの片隅と真ん中で育まれる友情】
台所における主婦の動線を調べ上げ、調理器具などの改良に成功したスウェーデンの家庭研究所。こんどは独身男性を研究対象とすべく、ノルウェーのひなびた村に調査員一行を派遣する。初老でひとり暮らしのイザックの家でも、調査員フォルケが台所の片隅に高いイスを据えて“観察”を開始。見つめられて居心地の悪そうなイザックと、彼が料理をしないので苛立つフォルケ。会話は厳禁。それでも静かに、友情は育まれつつあった。
(2003年 ノルウェー/スウェーデン)
【語り口の上手さといたわりの心を感じる作品】
あらすじでは「静かに」と書いたが、意外と軽快。ハリウッド風にドタバタすることも派手なところもないが、よどみなくお話は進む。
このテンポを生み出しているのが、提示と解決の妙。急に車線を変更するクルマの隊列や木彫りの馬、突然停止するトラクターなど「ん? ナニ?」と思わせてから、その疑問に答えるカット/シーンを後に入れ込むという手法を好んでとっている。セリフや説明なしでクスクスと笑わせてもくれて、“見せて伝える”という映画ならではの語り口の面白さを味わえる作品だ。
画面の構成も面白い。おそらく、キャリア豊富な主演ふたりの全身の演技力を生かしたいという意図なのだろう、あまりアップにはならない。ちょっとヨボっとしたイザックの背中に漂う偏屈さと孤独、監視用イスの上で縮こまっているフォルケなど、立ち姿・座り姿・動作によるキャラクター表現を尊重しているかのようだ。
手前にひとりがいて奥にもうひとりといった配置や、窮屈なキャンピングカーの中に並んで座るイザックとフォルケ、洗濯物越しに会話するグラントとフォルケなど、人と人の距離感の描きかたもさりげなくていい感じ。
また、雪景色を背景として、研究の責任者たちや村の医師など、どこかフワフワしてどっしり感のない人物ばかりが配されていて、舞台全体を“落ち着きのなさ、いい加減さ”が覆う。その腰が座っていない風情が「温かくて居心地のいいお家へ早く帰りたいよ」という、旅の途中にも似た不安感を喚起する。狭い範囲での物語なのに旅情が醸し出されている、といった感じだ。
ちょっと引っ掛かったのが、音楽の切りかた。BGMを入れるタイミングや曲の雰囲気はいいのだが、ブツっと鳴り止むところが多く、ストーリーのテンポを削いでいたように思う。
テーマ(語りたかったこと)はもちろん、イザックとフォルケの友情であるわけだが、と同時に“正しいものと、そうでないもの”との境界線、その不思議さや曖昧さという主題も読み取れる。
ノルウェーとスウェーデンの交通法規の違いが原因で身体に変調をきたしたり、寝室で食事を作ったり、腹をこわしたり、馬が病気だったり、グラントが医師の診察を受けたり……など、頻出するのは、普通ではない状況、一般的に見て正しくない状況の描写。そもそもキッチンに他人が入り込んで観察するという状況からして、もう正しくない。
そんな、正しくない状況を乗り越えて、あるいは誰かの正しくない状況をいたわることで、人と人との良好な関係が始まるということをいいたかったのではないだろうか。
すっきりしないラストともあいまって、旅先でフラリと入った店で、思いのほか親切なサービスと旨い料理にありついて、でも「今月で閉店」と聞かされた、そんな感じ(どんな感じだ?)の映画だった。
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