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2005/10/02

モンスター

監督:パティ・ジェンキンス
出演:シャーリーズ・セロン/クリスティーナ・リッチ/ブルース・ダーン

30点満点中17点=監4/話3/出5/芸2/技3

【連続殺人犯は、いかにして愛に苦しんだか】
 娼婦のリー(アイリーン)は未来のない自分の人生に絶望し、死を決意していた。最後に稼いだ金を使い切ろうと立ち寄ったバーで、寂しげな顔をしたセルビーと出会うリー。セルビーの誘いに応じて彼女の部屋に泊まったリーは、そばにいてくれる誰かを求めるセルビーに愛を注ぐようになる。が、リーが生き抜く手段は、街角に立つことだけ。暴力的な客を銃で撃ってしまったリーは、さらに抜け出しようのない地獄へと突き進んでいく。
(2003年 アメリカ)

【たぶんそれは、想像力の代替としての愛】
 このシャーリーズ・セロンには、誰もが圧倒されるだろう。あれほどの美形が、顔かたちを変え、体型を変え、表情を変え、言葉遣いを変えて完全なまでにアイリーンになりきっている。もともと体当たり派ではあるが、それにしても凄すぎる。観ているうちに彼女がピッカピカの美人女優であることなど忘れて、目の前のアイリーンが実在となって迫る。
 もう、女優魂なんて生やさしいものじゃない。

 そんな彼女を中心に据えて、もっとズブリザクリと、自分の意思に反して転がり落ちていく女性の姿を描き込むのかと思っていたが、意外と“薄い”映画だ。リーの生い立ちの説明は彼女自身のセリフや独白に頼っているし、セルビーのキャラクター背景もクッキリと浮かび上がることはない。
 撮りかたも、さほどショッキングでもスタイリッシュでもなく、かといってドキュメンタリータッチともいえない。淡々としているうえに野暮ったさもある。サビの匂いがするようなアメ車、モーテル、煙るバーなど、画面に漂う空気感は70年代から80年代にかけて乱造されたモンスター・パニック映画に近い。サウンドトラックも垢抜けない。

 いや、薄いというより、描く対象(リーとセルビー)に近寄ることも同情することもせず、彼女らの思いや行動を冷静に分析することもしなかった、といった感じか。
 恐らくは、あえて洗練された雰囲気を排し、必要以上に掘り下げることを避けたのだろう。人間や人間関係を描くのではなく、彼女らに起こった出来事を通してリーとセルビーという「存在」を(もちろんそこには監督自身の解釈も含まれているはずだが)ありのまま焼き付けようと試み、徹した映画に思える。

 そして、リーは浅はかだ。娼婦となったのも殺人を犯したのも不可抗力といえなくもないし、何とか足を洗って堅気になろうとする行動には、本気でそんなことができるとは考えていない諦観=自分が何者かをわきまえている様子も感じられる。けれど、哀れなまでに浅はかなことに変わりはない。
 ただ、リーのことを、異常と考えるべきではないだろう。誰だって、ちょっとしたことで転落の道を歩むことはありうる。娼婦であり犯罪者である彼女と、そのどちらでもない自分、という分けかたは、きっと間違いだ。
 むしろ、自殺しようとする人、そんなことを考えたこともない自分、という差異に関心がある。自殺者にあって自分が持ち合わせていないものは度胸だと思うが、逆に自分にあって自殺者に欠けているのは想像力ではないだろうか(リーの場合は『想像力の欠如』ではなく、幼い頃の惨い経験で『奪われた』のだが)。こうすれば、どうなる。この先に、何が待っている。そんなふうに想像する力がないからこそ、刹那的になり、進んではならない道へと突き進んでしまうのだ。
 最後の殺人は、避けようと思えば避けられた。それは彼女が想像力を取り戻すチャンスでもあったはずだ。けれど浅はかにもリーは、目を閉じて、想像することを捨て去るのである。

 もちろんセルビーも浅はかで、想像力を持ち合わせていない。それどころかひたすら自分を誤魔化し、選択を他人に委ね、責任を転嫁しようとする。同性愛という自分の嗜好に折り合いをつけることができず、その場しのぎで事を進めていく姿は、リーよりもよほど刹那的だ。

 ふたりの結びつきは、仮に愛だとしても、たぶん、彼女らが持ち合わせていない想像力の代替としての愛だ。目の前にあるのだから想像する必要なんてない、目の前にあるのだから安心できる、そういう類の愛なのだ。
 想像力があれば愛なんていらない、というわけじゃないけれど。

 そんなことを考えるのも、彼女たちの思いや行動の「なぜ」の部分を観客が想像するしかないように、この映画は意図的に薄く淡々と作られているからだ。
 想像力だけは、失いたくないものである。

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