バーバー吉野
監督:荻上直子
出演:もたいまさこ/米田良/大川翔太/村松諒/宮尾真之介/石田法嗣/岡本奈月/浅野和之/三浦誠己
30点満点中16点=監3/話4/出4/芸3/技2
【みんな同じ髪型の町。そこにやって来たのはカッコイイ転校生】
山と野原に囲まれた町、神ノゑ。ここに住む小学生の男子は、おかっぱスタイルの“吉野刈り”にするのがしきたり、切るのはバーバー吉野のおばちゃんだ。吉野家の長男ケータも、その友だちのヤジ、カワチン、グッチも、もちろん吉野刈り。そこへやって来た東京からの転校生・川上君。カッコイイ髪型に上杉たちクラスの女子はウットリ。「絶対に吉野刈りにはしない」と言い張る川上君に、カッコ良くなりたいケータたちも同調し……。
(2003年 日本)
【懐かしい味のする映画】
幼少期を振り返れば、確かにご近所はみんな顔見知りだった。街角にはちょっとおかしなおじさんがいた。そう昔の時代を舞台とした映画ではないはずだが、いわゆる古きよき日本の“あるある”的な味わいが、本作の特徴だ。
くたびれたランドセル、下校時のカバン持ち、貯金箱の中に1枚だけ折りたたまれた千円冊、エロ本を見てニヤニヤし、反省文を書かされる……。好きな女の子の縦笛を吹くあたりはベタだけれど、全体的に小学生の日常の描きかたは、まさに“あるある”で、ユーモラスかつ上質といえるだろう。
画面に配されるのも、その小学生たちが中心。ただし演出・撮影の視線は寄り添うのではなく傍観的で、彼らそのものを映すというより、彼らがいる空間を撮るといった趣だ。特に室内は、ややアンダー気味で、カメラが吉野家や川上君の子供部屋へと上がりこんで、その場所に漂う薄暗さや空気感を“そのまんま”捉えるという感じ。
また引きめの画角が多く、1カットも長めで、ゆっくり、というよりボンヤリとした時間が流れる。子供たちがメインとなっていることともあいまって『がんばれ!!ロボコン』とか『5年3組魔法組』あたりのイメージに近い、古くて野暮ったい映像だ。
ただし、そうした撮りかたが(意識したわけではないのかも知れないが)牧歌的な雰囲気作りに上手く結びついている。編集と音声に瑕疵は見られるものの、作品の内容にはマッチしたヴィジュアルといえそうだ。
子役たちの演技も良(たぶん、ここ20年の映画・TVドラマ界でもっとも進化したのは子役の演技だろう)。主役のケータ+ちびのヤジ+メガネのカワチン+太っちょグッチと、ステロタイプながらきっちりとキャラクターを分けたことも奏功し、また性格・セリフも微妙に違わせて、たとえ同じ髪型でも個性が滲み出てくるような設定となっている。上杉役の岡本奈月も可愛い。
彼らを取り巻く大人たちも、もたいまさこは力みがあるものの眉毛を使った表情の変化で笑わせてくれるし、担任の先生役・三浦誠己もつっけんどんな口調が楽しい。
そうした世界から訴えかけてくるのは、理不尽な押し付けと、その陰にある親心、子供ならではの価値観、子供ならではの時間の流れ、社会を維持するために守らなければならないものと、社会を発展させるために切り捨てなければならないもの……といったもろもろのテーマだ。
川上君の登場によって「なんで吉野刈りにしなきゃいけないの?」と、みんなが思い始める“事件”が本筋となっているが、ありきたりな「異端が触媒となってもたらされる変化」から一歩踏み外して、いや必要以上に踏み込まずに、閉ざされた1つのコミュニティをそっと見つめて、さまざまなことを考えてもらうことがテーマとなっているように思える。
が、そんなことはどうでもいい。傑作ではないし、映画的な面白さに満ちているともいい難い。ただ30代以上の田舎出身者にとっては、ノスタルジイに浸れるというだけで存在意義のある作品だろう。
カルピス、バャリース、クリープ入りのインスタントコーヒー、薄めのレモンティー。そんな、懐かしい味のする映画である。
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コメント
トラバさせてもらいまーす。
もたいワールド、存分に堪能できましたワー。
投稿: ジョニーA | 2007/02/27 12:22