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2005/10/30

オーシャン・オブ・ファイヤー

監督:ジョー・ジョンストン
出演:ヴィゴ・モーテンセン/オマー・シャリフ/ズレイカ・ロビンソン/ルイーズ・ロンバード/アダム・アレクシ=モール/サイード・タグマウイ/J・K・シモンズ/サイラス・カーソン/ハーシュ・ナイヤール/ピーター・メンサー

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸3/技4

【サバイバルレースに挑む、誇りあるひとりと1頭】
 野生の馬マスタング。それは“飼い馴らされぬ者”。開拓期の西部、ネイティヴ・アメリカンの血を引くカウボーイのフランクは、マスタングのヒダルゴとともにいくつもの長距離レースを制覇する。「世界一速い馬と騎手」と称されるようになったこのコンビは、アラブの首長に招待され、灼熱の砂漠を3000マイルにも渡って走破する『オーシャン・オブ・ファイヤー』に参加することになる。そのレースには、数々の欲望と策謀が渦巻いていた。
(2004年 アメリカ)

【テーマ性とエンターテイメント性を両立させた作品】
 人間には“目的”が必要だ。
 目的を形成するのは、たとえば義務感。フランクとヒダルゴをレースに招待するシーク(首長)は、アラビアの騎手と馬こそが一番であると証明することと、一族の威厳を保つという責務を目的に変えて生涯を送る。
 欲望も目的を作り出す。シークの甥は(手段はともかく)栄誉を得んとして必死だ。参加馬のオーナーのひとりであるレディは、名馬アル・ハタルの血がどうしても欲しい。
 虐げられている存在ほど、いちど目的をつかんだ際の執念は強いのかも知れない。女ゆえに抑圧されて生きるジャジーラは、イスラムの掟に背いてまで自立をつかみたいと願っている。奴隷のジャファは、命を賭してまで姫を守り通そうとする。

 無謀にも思えるレースに挑むフランクにとっては、自分自身のアイデンティティの確立が“目的”なのだろう。その源にあるのは、目の前で同胞(ネイティヴ・アメリカン)が虐殺されるのを止められなかったことに対する呵責の念。そして「消えゆく運命にある者」たちの象徴としてのヒダルゴを、誇りとともに守り通したいという願いだ。
 そうした思いを昇華・成就させるためには、酔いつぶれて内にこもっているだけではダメ。助けを望めない自然の中で、運命や大いなる意思を感じながら、自ら走り続け、勝ち続けることが求められるのだ。

 彼ら登場人物たちの、“目的”を果たさんとする戦いを、カメラは大きく捉える。風や温度が感じられる撮影・美術と、画面を美しく彩るジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽は、実に美麗。
 特に砂漠の各シーンは壮大さと緊迫感に満ちている。ちょっとマイナー感を加えれば、いい『ベルセルク』(三浦健太郎)が撮れるぞ、なんて思ったりして。プロローグで降り出す雪のタイミングと量も素晴らしい。
 ただし、砂漠も荒野も刻一刻と、フランクたちの思いや目的なんかお構いなしに色合いを変えてゆき、そのスケール感のある画面は、フランクやヒダルゴをはじめとする登場人物たちを、大自然の中にいる小さな存在として印象づける。“目的”へと向かって精一杯に足掻く生き様は、かくもちっぽけで、こんなにも尊い。そんな、自然と人間との関係。

 主演ヴィゴ・モーテンセンは、はっきりとハマリ役。アラゴルンには「情けない人間」という風情があったが、フランクは「情けないことも含めての人間」として描かれていて、深みを感じる。
 シークにオマー・シャリフを得たほか、神秘性と情熱とを併せ持つジャジーラ役ズレイカ・ロビンソン、フランクの面倒を見るユーセフ(ハーシュ・ナイヤール)のトボケた味わい、出番の少なさがもったいない颯爽としたジャファ(ピーター・メンサー)などキャスティングは抜群だ。
 役者たちにも増して輝くのがヒダルゴだ。完全に人間を食ってしまっている(5頭の馬が演じたらしい。アップ用とかギャロップ用とか役割分担があったのかな)。人間と絡んだ動物としては、たぶん『オズの魔法使』(ヴィクター・フレミング監督)のトトに並ぶ名演だろう。
 ただ、あれだけの大怪我をして鼻出血まで発症した馬に、あんなラストスパートは無理なはず。もっとも実話といわれれば納得するしかないのだが。

 レースに至るまでの描写が、やや長ったらしいのが玉にキズ。テーマを考えれば、じっくりとフランクの苦悩を描くこのパートは不可欠ではあるが、もう少し整理・凝縮したカタチで見せてくれてもよかっただろう。
 それを除けば、なかなかのデキ。特に、青白く褪せた序盤の殺戮シーンと死を間近に感じたフランクがようやくアイデンティティを手に入れるクライマックスシーンとの結び付けかたは鮮やかで、ラストシーンとともに「この作品でいいたかっとこと」をしっかりと伝えてくれる。
 レースシーンや襲撃・格闘シーンには迫力もあり、テーマ性とエンターテイメント性を両立させた作品といえるだろう。

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