スズメバチ
監督:フローレン・エミリオ・シリ
出演:ナディア・ファレス/ブノワ・マジメル/パスカル・グレゴリー/ヴァレリオ・マスタンドレア/リシャール・サムエル/サミー・ナセリ/サミ・ブワジラ/アニシア・ユゼイマン/マルシアル・オドン/アンジェロ・インファンティ
30点満点中16点=監4/話2/出3/芸3/技4
【飛び交う銃弾、銃弾、また銃弾!】
厳重かつ万全の態勢でアルバニア・マフィアの幹部アベディンを護送する警察隊。だが敵の待ち伏せにあって壊滅、かろうじて難を逃れた女性中尉のラボリら数名は、アベディンを乗せた装甲車とともに町外れの倉庫へと逃げ込む。その倉庫では、ナセールやサンティノら強盗団が警備員を縛り上げ、いままさにブツを盗もうとしているところだった。外部との連絡手段を断たれた倉庫をマフィアが取り囲み、銃弾の嵐を降らせる……。
(2002年 フランス)
【アクション映画としての潔さは○なのだが】
ここまで自分が書いたものを読み返してみると、けっこう“スピード感”を重視していることがわかる。
もちろん、ただ飛ばせばいいってもんじゃない。ゆったりと流れる時間を描いた作品にだって、大好きなものはある。
要は、映画の内容とスピード感が合致しているかどうかが大切ってこと。スリル、サスペンス、アクションをキーワードとする映画には、観るものをグイグイと引っ張ってゆくストーリー展開の切れ味と、各シーン/カットにおける疾走感・テンポのよさを求めたいのだ。
本作の場合、オープニングからの約30分、訳もわからぬまま一気にお話が進み、その中で少しずつ、護送という任務や強盗団による倉庫への侵入など物語の骨格が明らかとなっていく。
ここまで、ほとんど説明なしに映像が連ねられるのだが、それが鮮やか。たとえば護送隊の前方で発生した交通事故が偶然ではないことを1カットで示し、強盗団のひとり・軽業師マルシアルの働きぶりを丹念に見せるなど、説明ではなく描写によって、誰が、どんな目的で、何をしようとしているのかを描き出すのだ。
口笛で奏でられる『荒野の七人』など、ノリもいい。
クライマックスの銃撃戦でも、この姿勢が保たれる。クドクド説明することなく、ひたすら銃弾の嵐。倉庫内のどこに何があって、どんな構造なのかといった説明を省き、とにかく撃って撃って撃ち返す。
物語性をギリギリまで排除し、各登場人物のアクションに迫力とスピード感を出すことに力を注いだ、いわば純アクションとでも呼ぶべき作品だ。
その潔さがこの映画の魅力であるわけだが、と同時に、限界ともなっているのが皮肉だ。
アクション映画の面白さの本質は、実はアクションそのものではなく、その背景描写にあるのではないかと思う。野盗を撃退するために侍がかき集められたり、ガンマンばかりの中にナイフの名手が混じっていたり、妻を訪ねてきた刑事が事件に巻き込まれたり……といった、アクションに至るまでのディテールがしっかりと作り込まれ、キャラクターの細部が描かれ、それらがクライマックスに直結することでアクションのリアリティや面白さも増すはずなのだ。
本作でも、子供のいるラボリ、銃を持つことを拒否する強盗団のサンティノ、レイプされた経験があるらしいナディアなどキャラクターの背景はそれなりに盛り込まれる。警察vsマフィアの対決構図という設定もある。が、それらが有効にアクションには結びついていない。
幸いにも単調ではなく、狭い倉庫内が舞台であるにも関わらず、マフィアに対するラボリらの反撃の様子はアイディア豊富に描かれる。が、それらが状況設定やキャラクター設定と直結していないため“面白さのコク”が足りなくなっているのだ。ルイが元消防士という点だけは生かされているが、それも少々唐突で強引だろう。
また冒頭で「敵の内部から侵食していく」というスズメバチの生態が紹介され、それが映画タイトルにもなって「警察か強盗団の内部にマフィアの手先がいる?」と勘繰らせるのだが、それもない。
潔くてスピーディーで迫力はある。でも、奥深さや広がりやヒネリは効いていない。そういう映画である。
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