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2005/10/26

チャーリーとチョコレート工場

監督:ティム・バートン
出演:ジョニー・デップ/フレディ・ハイモア/デヴィッド・ケリー/ヘレナ・ボナム=カーター/ノア・テイラー/ディープ・ロイ/クリストファー・リー

30点満点中18点=監4/話2/出4/芸4/技4

【天才パティシエのチョコ工場、その不思議な内側は?】
 かつて天才の名を欲しいままにしたウィリー・ウォンカ。彼が作るチョコレートは爆発的に売れ、世界一の工場まで建てたほど。ところがライバル業者にレシピを奪われて人間不信に陥ったウォンカは、従業員をすべて解雇、工場内に閉じ篭ってしまう。それから十数年、ウォンカは「世界中から5人の子どもを工場見学にご招待」と発表。運良く当たりくじを引き当てたチャーリーは、昔ウォンカのもとで働いていたジョー爺ちゃんと工場へ向かう。
(2005年 アメリカ)

【パロディで気恥ずかしさを希釈させたファンタジー】
 D-16の席。1つ置いた左側には、3歳くらいの女児を抱いた若いお母さんの姿。大丈夫っすか。これ字幕版ですよ。大音響ですよ。バートンの世界って、貴重な幼児体験かトラウマかの大博打ですよ。
 ま、おとなしい子だったので鑑賞中はその存在など忘れていたのだが、不安は、ある意味で消し飛び、ある意味で的中したといえる。
 これって、そういう映画だったのね……。

 いや、前半部は期待と予想をしていた通りの内容。時間と空間を行き来しつつ、平易で聴き取り&読み取りやすい言葉を使いながら、にぎやかかつテンポのいい展開で、物語の設定と前提が語られる。
 拾った札でチョコを買ってしまう部分も含めての子どもらしさが、チャーリーからあふれる。貧乏だけど(あるいは貧乏ゆえに)どこか高潔。チャーリーの祖父・祖母・両親も温かに描かれる。招待される子供たちのキャラクターも多彩だ。
 見た目的にも楽しい。隙のないCG、モノトーンの町とセピアの室内とポップな色使いの回想、そして決まりすぎるくらい決まったカットの連続。雪上に残る轍すらも美しい。風に押されて重さの増すバケット家のドアも、その質感が素晴らしい。
 全体にデジタルっぽいシャープな絵で、人の肌はのっぺり。それがCGとマッチするとともに、摩訶不思議な雰囲気も醸し出す。抜群の立体感を持つ音響もいい。
 つつましい暮らしの中に幸せを感じさせて、ちょっとした毒もある。まさに児童文学チックかつバートンチックな仕上がりだ。

 が、5人の子供たち+保護者が工場に足を踏み入れるあたりから、やや趣が異なってくる。
 最初に、微妙な違和感。製作サイドは「CGを使いすぎず、セットを組んだこと」で独特の楽しい空間を作り出せたと自負する。それは確かにそうだろうが、あまりにセットであることを強調するような俯瞰+引きのアングルが主になっていて、ちょっと興醒め。テーマパーク的で楽しいものの、工場というよりスタジオを見学している気分になる。
 そういえば舞台は、(インドや東京やチャーリー以外の4人の招待客の家をのぞけば)工場内とその周辺のみ。おまけに空は雪雲に閉ざされがち。どことなく窮屈だ。
 ジョニー・デップの存在感と奇天烈さの表現はさすがだが、ネジのゆるみ具合が無機質で、なんとなく不安を感じる。
 う~む、児童向けファンタジー特有の“脈絡のなさ”が顔をのぞかせてきたぞ。退屈になってくるかも。

 一転、ウンパ・ルンパが歌って踊るあたりから、作品の本性が牙をむきはじめる。この、“脈絡のなさ”を超えたところにある得体の知れなさ。このブっ飛びっぷり。
 ダニー・エルフマンが作りヴォーカルまで担当する音楽は、アフリカン・ビートあり、ファンキーなディスコ・サウンドあり、○○○○○から○○○○まで、悪趣味とハイセンスの境界線で観るものの腎臓をくすぐる。わらわらと踊る振り付けも微笑ましい。
 そして「なんでここに『○○○○○○○○○』の映像が?」と思わせて、すぐさまその理由が明らかとなってニヤリ。おまけに○○○・○○○○の○○○○○まで登場する。「そういえば、ウンパ・ルンパが歌って踊る極彩色の空間って、マンチキンが歌って踊る『オズの魔法使』(ヴィクター・フレミング監督)とソックリじゃん」と思いいたり、ここにおよんで本作の枠組はハッキリと認識できるようになる。
 これ、ただの児童文学じゃなくて、パロディを詰め込んだオトナ向けオフザケ風味のアイロニカル・ファンタジーなのね……。

 食い意地は身を滅ぼします。なんでも欲しがってはいけません。謙虚さを知りなさい。たぶんバートン監督は、原作に忠実にと思いつつも、そういったお説教をそのまんまお説教として描くことに気恥ずかしさを感じたのだろう。よって、過去の名作の断片を借りて気恥ずかしさを希釈する。ドロシーがカンザスに帰るための呪文「わが家が一番」を「家族が一番」に変えて、大テーマすらもパロディにしてみせる。
 これなら、貴重な幼児体験にもトラウマにも、なるときはなるし、まったくならないともいえそうだ。

 人を惑わす甘さ、ほろ苦さ、口どけのよさ、香り。チョコレートは世界共通のハッピー・アイコン。ただし、国によって味わいは微妙に異なる。
 慣れ親しんだ明治や森永やグリコとは違って、あるいはコクの深さが魅惑的なラ・メゾン・ドゥ・ショコラやジェラール・ミュロといったフランス系とも異なり、本作はバタくさいアメリカ風味。いくら希釈してもバタくささが残るあたりが、この監督らしい。

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