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2005/11/22

クジラの島の少女

監督:ニキ・カーロ
出演:ケイシャ・キャッスル=ヒューズ/ラウィリ・パラテーン/ヴィッキー・ホートン/クリフ・カーティス/グラント・ロア

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3

【期待されなかった少女】
 ニュージーランドのある島に住むマオリたちには、クジラに乗ってやってきた男=パイケアが始祖になったという伝説が残っている。族長のコロは新たな指導者の誕生を願っていたが、双子をはらんだ長男の嫁は出産の際に男の子とともに死に、生き残ったのは女の子だけだった。パイケアと名付けられたその少女は、やがて成長し、マオリに伝わる歌や戦いに才能を発揮するようになる。だがコロは、頑なに男児の後継者にこだわるのだった。
(2002年 ニュージーランド/ドイツ)

【心の“いたみ”を超えたところにあるもの】
 各地のノド自慢で上位に入賞して片っ端から賞金・賞品を浚ったので遂にはイベンターのブラックリストに載ってしまったとか、町中のイヌを川に投げ込んで以来イヌが寄りつかなくなったとか、うちの親父はいくつか伝説を持っている。どこまでホントかは知らないが。
 が、幼い頃に暮らした“土地”になにがしかの伝説が残っていただろうかと考えると、とんと思い出せない。
 伝説が生きる地に暮らす人は幸せだ。ましてやそこが生まれ故郷ならば、なおさら。道を歩き、星を見上げ、空気を吸い込むだけで、神以上の何かに守られているように感じることだろう。

 本作の中心に据えられているのは、クジラに乗ってやってきたホエールライダー=始祖パイケアの伝説。マオリの村の伝説だ。
 その伝説が息づく地の様子、マオリの風習の数々が、まずは丁寧に盛り込まれる。鼻を擦り合わせる挨拶、鎮魂や先祖に呼びかけるための歌、棒を用いた戦闘術、ラグビー・ニュージーランド代表のオールブラックスで有名な戦いの踊り『ハカ』などなど。時おり混じる打ち込み系の音楽は画面に馴染まないが、それほどに独特の、マオリならではのゆっくりとした時間の流れが、ここには感じられる。監督もメインキャストもホンモノのマオリで占めたことが功を奏しているのだろう。
 そして各人の表情、特に族長コロの苦悩をしっかりと捉えて、マオリが置かれている立場をうかがわせる。近代化が進み、マオリの伝統が失われつつある時代に、勇者パイケアのスピリッツを受け継いで伝統を守りつつ、新しい時代にふさわしい新しい指導力を発揮できる、そんなリーダーの誕生が期待されているわけだ。

 こうした民族的問題・伝説というマクロなものと同時に、家族というミクロなコミュニティに関わる事柄が描かれる。
 親が子にかける期待、その期待に応えられずに屈折して故郷を飛び出す子ども、頑固な夫をたしなめる妻……。
 それらはマオリに限らず、全世界の家族に共通する、どこにでもある衝突劇だろう。ただ本作では、大声で叫ぶことなく、誰も暴力に訴えず、それぞれの人物が怒りよりも「善き者でありたい」という願いとともに行動する。ここまで心の“いたみ”を感じさせる映画は少ない。

 その“いたみ”を克服するために必要なのは、認め合うことだ。
 ヒロインのパイケアを演じたケイシャ・キャッスル=ヒューズは、祖父に認めてもらおうとする懸命の“いたみ”を全身にまとう。演技はあくまでも子役の域を脱しないが、それが次第にジワジワと効いてくる。まだ幼い彼女はこんなにも族長コロの立場とやるせなさを理解し認めているのに……と思わせるのだ。真に迫ったスピーチが、涙を誘う。
 ラウィリ叔父さんの存在もまた、認めることの大切さを教えてくれる。父や兄の苦しさを認め、自らをダメダメなヤツと認め、余計な口出しは一切せずにそっと陰から支えることに徹して、けれどいざという時には実行力を発揮する。認められる術を自然に身につけている、こういう人もまたコミュニティには必要なのだ。ストーリーの中でも、体や顔のちょっとした動きで展開を次に進める役目を担っていて、実にオイシイ役どころである。

 このふたりを中心に、民族と家族は認め合う心を手に入れる。
 それ以前には空は鉛色に染まり、海もその鈍くて重い色を映していたのだが、わだかまりを捨てて認め合うと、ようやく空も海も鮮やかなブルーへと変わる。水平線の遠さに無限の可能性を感じさせて、人々を迎え入れる。
 この景色に至るために“いたみ”を学び、耐え、乗り越えることが必要だったのだ。これは民族と家族が“いたみ”を克服し、新たな一歩を踏み出していく様子を描いた映画である。

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「スタンドアップ」 の ニキ・カーロ監督。 素朴でとてもすがすがしく良い映画でした。  ニュージランドが舞台で、マオリ族という古い民族の話。 登場する俳優さんもすべてマオリ族。 マオリ族の祖先、勇者パイケアはその昔クジラに乗ってニュージーランドにやってき....... [続きを読む]

受信: 2006/01/13 22:19

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