コントロール
30点満点中15点=監3/話3/出3/芸3/技3
【凶悪犯は“人”としての暮らしを取り戻せるのか?】
死刑の免除と引き換えに、新薬の生体実験の被験者となった凶悪犯のリー・レイ。彼に投与されるのはコープランド博士が開発した“アナグレス”。人間の脳に作用し、凶暴性を抑えるというクスリだ。当初はクスリのおかげで従順になったフリをし、脱走を試みるなどトラブルばかり引き起こすリー・レイだったが、やがて自らの罪に悔恨の情を示すようになる。遂に実験は第二段階を迎え、リー・レイは社会に出て働き始めるのだが……。
(2004年 アメリカ)
【演出プランを変えれば傑作になり得たのだが……】
死刑には反対だ。「誤審というものがなくならない限り、死刑は認められるべきではない」というユージーン・ヤングの説得力ある言葉や「人間に人間の命を奪う権利はあるのか」という議論とは別に、単に「自分や自分の大切な人が傷つけられたなら、傷つけた相手には『死』以上の苦しさを味わわせたい」というだけにすぎない。恨みつらみである。
更生なんて言葉は信じない。世の中では「昔は悪かったけれど、いまは立ち直った」という人がもてはやされるが、そんなもの「生まれてから死ぬまで真面目」なほうが素晴らしいに決まっている。「すっかり更生しました」なんて、胸を張っていうべきことではない。
そもそも人は“変わる”ことができるだろうか? (人間的に)変わっていると評価されたことはあるけれど、「変わったね」とも「変わらないね」ともいわれた記憶はないので、正直よくわからない。
結局は、ある人に対して、自分自身に対して、どういう人間でありたいと願うのか、それがすべてではないかと思う。もっとも、こうありたいと願う姿でいられることは稀だけれど。
そう、サスペンスとして仕上げられてはいるが、本作は「人は変われるのか」が大テーマ。自暴自棄で破滅的だった死刑囚リー・レイが、自分に対して、自分を見守るコープランドに対して、かつて傷つけてしまったゲイリーに対して、愛するテレサに対して、どういう人間でありたいと願うようになったのか、その変化を楽しむべきお話である。
だから、本来ならもっとシットリと、リー・レイの心情変化を主軸に描くべきだった。が、リー・レイは「生まれ変わった」芝居をしているだけではないのか、そういうハラハラ感を重視した仕上がりと売りかた。テーマと作法を履き違えてしまったような作品だ。
それでも、そのハラハラ感をたっぷり堪能させてくれればまだよかったのだが、なにしろサスペンスとしてのリアリティが薄い。実験施設の警備態勢は簡単に脱走を許してしまいそうなくらい甘いし、政府にすら極秘の実験であることも伝わってきにくい。ロシアン・マフィアからの刺客が撃つ銃は、からっきし当たらない。
キャスティングもリアリティ欠如の要因だ。
コープランド博士役のウィレム・デフォーは、相変わらず科学者に見えないし、人物としてのアイデンティティも不明確だ。自分が短気だったおかげで、かつ喧嘩相手も短気だったおかげで息子を死なせてしまったことに対する悔いが研究の動機になってはいるのだろうが、そのあたりが上っ面だけしか描かれていない。
逆にレイ・リオッタは凶悪犯の役にピタリとハマる。ハマリすぎていて、どうしても「こいつが更生するわきゃないだろ」と思えてしまって、ますますサスペンス色が強くなる。根っこに「サスペンスとして仕上げましょう」という狙いがあるから、演技的・演出的に「生まれながら凶悪ではない。だから変われる可能性もある」ことを訴えかけようと頑張ってみても、どうも空回りしてしまっている印象だ。
撮りかたも、ごくごく真っ当でクセのない絵・編集。スケール感もなく、スリリングでもない。それがまた、サスペンスになり切れない中途半端な雰囲気を作り出してしまっている。
やはりサスペンスではなく(その要素はあってもいいと思うが)、人は変われるのかを真っ向から描いた『ヒューマンドラマ』として仕上げるべきではなかったろうか。
リー・レイが変化する理由やドンデン返しなど題材としては面白いと思うし、レイ・リオッタも頑張っている。テレサ役のミシェル・ロドリゲスは可愛い。ヒューマンドラマへとベクトルを持っていける要素はいっぱい詰まっているのだから。
死刑囚の更生+担当医との交流という、ほぼ同じテーマ・構成の『死刑囚042』(作・小手川ゆあ)と比べると、状況・ディテールの描き込み、お話のふくらまし、登場人物の心情の掘り下げ、すべてにおいて不足しているものの、そのあたりを強化し、みっちりと「変化の過程」を盛り込めば、そしてたとえば「微笑みながら死んでいくリー・レイ」というエンディングにすれば、切なくて、泣ける映画に化ける可能性もあったはず。サスペンス色を強くして仕上げるよりも、遥かにいい作品となったことだろう。
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