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2005/12/01

夏休みのレモネード

監督:ピート・ジョーンズ
出演:アディール・スタイン/マイク・ワインバーグ/エイダン・クイン/ボニー・ハント/ケヴィン・ポラック/ブライアン・デネヒー/エディ・ケイ・トーマス

30点満点中16点=監3/話3/出4/芸3/技3

【1976年、シカゴ。3年生への進級を控えた夏休みの物語】
 シスターから「地獄に落ちる」といわれた不真面目少年ピートは、ユダヤ教の人々をキリスト教に改宗させて善行を積もうと思い立つ。ラビの息子ダニーが白血病に冒されていて、長くは生きられないことを知るピート。アイルランド系カトリックであるピートの父は、息子がユダヤ教の会堂に出入りすることを快く思わず、ラビと衝突もするが、ピートはダニーを無事に天国へと送るため、神様に認めてもらう“テスト”を課すのだった。
(2002年 アメリカ)

【フツーの世界で、子どもに教えること、教わること】
 とかく人生は迷いに満ちている。しかも、どうでもいいようなことで日々迷う。今年のお中元は何にしようかとか、今晩の献立とか。
 絶対的な拠りどころがあればなぁと思う。たとえば「オレの人生はグリーンだ」と思い込めば、着ていく服に迷わなくてすむ。「キリンがすべて」と決め込んでしまえば、誰かへのプレゼントもすぐに見つかる。
 世界標準の拠りどころが、宗教だ。信仰に背かず生きる。その指針があるだけで小さな迷いはずいぶんと減るだろう。

 が、オトナたちにとっては疑いようのない宗教という拠りどころも、ピートから見ればクエスチョンがいっぱい。小さな迷いを断ち切るはずのものなのに、大きな悩みをもたらしてくれる。
 大人たちは、そんなピートの悩みを跳ねつけない。ピートが全身で考えて行動するのを、優しく見守ってくれる。時には渋い顔もしてみせるけれど、子どもなりの解釈で迷いや悩みをひとつずつ克服してゆくことが成長につながる、そう信じているようだ。つまりこれは、ピートがピート自身の拠りどころを見つけていく物語なのである。

 いっぽう、彼の成長過程を見守る大人たち(主にピートの父親)が、自分自身の拠りどころについて考え直すストーリーでもある。また、ピートとダニーの視点で描かれている部分と、周囲の大人たちが中心となる部分、2つが等分に、ほぼ交互に編集されていて、子どもに何かを教えると同時に、子どもから教わることも多いということを伝えてくれる作品、子どもとともに暮らす方法をテーマとした映画といえるだろう。

 つまり、特別なお話ではない。
 大人のちょっとした意地の張り合いで子どもが迷惑を被ったり、子どもの無邪気ないたずらが大人を困らせたり、「線路までひとりで行ってはいけない」といったルールがあったり、近しい誰かが天国に召されたり……、本作に盛り込まれた出来事やディテールは、どこの地域・親子社会にでもあるものだ。いわば“フツーの世界のフツーの人々のフツーの話”である。
 キャスティングもフツー。アクの強さは抑えられ、ピートとダニーの純真さだけが浮かび上がるような顔ぶれ。神父役ブライアン・デネヒーの胡散臭さまでが「いそうだなぁ」=フツーっぽさとして映る。
 奇を衒わず、必要なことを適確にしっかりと撮る画面作りも、ピチカートを多用して子どもの軽快さを表現する音楽の使いかたも、いかにもフツー。

 キリスト教とユダヤ教の違いがクローズアップされているように見えるけれど、実は宗教もまたフツーの世界を形作る要素・道具立てにすぎない。扱われる拠りどころは、他のものでもよかったのだ。現に、彼らのコミュニティでは野球が大きな拠りどころになっていることも語られる。たぶん「信仰に背かず生きる」ことと同じくらいの価値観と位置づけで「ベースボールを楽しむ」ことも、彼らが生きるための指針となっているはずだ。
 ただ、フツーの世界に住むフツーの人々だからこそ大切にしなければならないもの、すなわち“人の命の尊さ”とか“いたわりの気持ち”、“家族の絆”といったものをメッセージとして作品に込めるために、宗教がわかりやすくて大きなツールとして盛り込まれているのだろう。

 映画に登場する大人たちといっしょに、観客もピートとダニーの成長ぶりを見守り、新たに知り合った人々とどう接すればいいのか、大切なものを守るためにどんな行動を取ればいいのか、それらの決断において自分の拠りどころとなるものは何なのか、といったことを考えさせてくれる映画である。

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