ディープ・ブルー
監督:アラステア・フォザーギル/アンディ・バイヤット
出演:マイケル・ガンボン(ナレーション)
30点満点中17点=監3/話2/出3/芸4/技5
【神秘と深遠の“青”の世界】
イルカ、サメ、アホウドリ、アシカ、ホッキョクグマ、クジラ、キハダ、ウミガメ、イワシ、シャチ、エビ、クラゲ、カニ、サンゴ、ペンギン、アンコウ……。海に棲む数々の生き物の姿を、7年の歳月をかけ、7000時間分のフィルムを費やして撮影したドキュメンタリー。北極から南極、マリアナ海溝から日本までロケ地は200か所にもおよび、初めて撮影された(新発見の)生物も多く、貴重な映像は学会でも使用されているという。
(2003年 イギリス/ドイツ)
【ドキュメンタリーではなく、アート&スペクタクル】
死刑執行直前、人生最後の食事。好きなものを腹いっぱい食べられるとしたら、断然寿司だ。松前マグロのカマトロ、小柴シャコ、北海シマエビ、関サバ……。1貫ずつかみしめながら味わう。
注文に対して板さんが「いま、時期じゃないんで」といったら、こっちのものだ。「じゃあ時期が来るまで待ちます。なにしろ好きなものを腹いっぱい食べたいので」。これをひたすら続ければ、絞首台へ送られずにすむ。たとえ業を煮やした刑吏に途中で引っ立てられたとしても、最後に口にしたものが脂ののったシマアジなら、少しは浮かばれる。
海には美味があふれている。
で、本作に登場するクジラや鳥たちも、とにかく小魚を食べまくる。その貪欲な姿に、ああ、イワシやアジには生まれ変わりたくないな、なんて思ってしまう。
われわれ人間が寿司を食すのと違って、味わうという感覚はなさそうだ。かぶりつき、そして呑み込む。ひたすらに。徹底して描かれる、弱肉強食ワールドとしての海。それが“生物界の摂理”であるわけだが、意外にも「だから自然に干渉するな」というメッセージ性は希薄だ。食物連鎖の頂点にいるのが人間である事実や、その人間が繰り返す汚染・乱獲といった愚行については、申し訳程度にしか触れられていない。
代わりに重視されているのは、アートとしての完成度。風や温度を感じられるように撮り、暗い水中なのにサメの肌やホッキョクグマの体毛を質感確かに捉えている。が、海中映像癒し系やオサカナ紹介系の作品とは違って、対象物の色・カタチをしっかり映して同定できるようにする、という絵作りではない。「そのショットはカッコいいか?」という価値観で選択されたカットが連続する。すなわち、アート。
物語性にも注意が払われている。かなり時間を空けて撮られたはずのカットをモンタージュし、早送り・大胆な省略などで悲劇や喜劇を紡ぎ出す。
そして何より、映像としてのスペクタクル性を大切にしている作品ともいえる。漁場へと波間を滑走するイルカ、海中へ特攻するオオミズナギドリらのスケールとスピード感は、さながら戦争映画。サンゴ礁で魚を追い詰め、一尾の獲物に数十匹が群がるサメどもの様子は、まるでアンデッド。いたぶるようにアシカを放り投げるシャチは、モンスターパニック。イワシの大群は「群れで泳ぐ」という言葉を超えた舞いを見せ、イワシを狩るクジラを海中から撮ったカットには痺れるほどの重量感がある。
ジョージ・フェントン&ベルリン・フィルの雄大な音楽ともあいまって、とにかく「美しくて、すごい」という雰囲気が作られている。
かつてNHKでも放映されたBBC制作のドキュメンタリー番組から、見どころをチョイスして再構成した作品らしいが、その「アート&物語性&スペクタクル性重視」という構成の一貫性と完成度は実に見事といえるだろう。
本作を観て、自然や生物界について語ろうと思ってはならない。迫力あったねー、すごいねー、こわいねー、と、単純に感嘆するべき作品。だって、それが狙いなのだから。
そして、寿司を食いたくなる。
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投稿: 日本インターネット映画大賞 in ブログ | 2005/12/27 22:01