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2006/02/19

レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語

監督:ブラッド・シルバーリング
出演:ジム・キャリー/エミリー・ブラウニング/リーアム・エイケン/カラ・ホフマン/シェルビー・ホフマン/メリル・ストリープ/ビリー・コノリー/ティモシー・スポール/セドリック・ジ・エンターテイナー/ダスティン・ホフマン/ジュード・ロウ

30点満点中19点=監3/話3/出5/芸4/技4

【幼いきょうだいに襲いかかる不幸せ的状況の数々】
 発明好きの長女ヴァイオレット、読んだ本の内容を完璧に記憶している長男クラウス、なんにでも噛みつく次女サニー。ボードレール家の三人の子どもは火事のために両親を亡くし、見も知らぬ親戚・オラフ伯爵に預けられることとなる。ところが貧乏俳優の伯爵は、子どもたちが将来相続するはずの遺産を狙って、あの手この手で責めたてる。「血縁のない」親戚のもとへ逃げる三人だったが、伯爵の追跡は休むことがなかった。
(2004年 アメリカ)

【不幸せと幸せは隣り合わせなのである】
 長女のヴァイオレットが、実に美しい。透き通るような白い肌と、細い骨格をうかがわせる立ち姿。滑らかな髪がきゅっと束ねられる瞬間、発明に勤しんだ日々……両親が留守がちだった寂しさを乗り越えるために心の中から掘り起こした好奇心と、身につけた行動力……が彼女のアイデンティティを支えている、ということもわかる。
 あきらめを湛えた目の下で力強く結ばれる厚めのくちびる、そのバランスが作り出す冷ややかさと熱さが同居する表情は、間違いなく不幸せ的状況下でしか作られ得ないものであり、“美”が幸せのひとつなら、彼女は不幸せゆえに幸せを手にした存在ともいえる。そのアイロニーを表現するのに、エミリー・ブラウニングはまさに適役だ。

 長男クラウスを演じたリーアム・エイケンも、やはりハマっている。内向的で、ふとしたきっかけで心がプラスにもマイナスにも振れるティーンの雰囲気がよく出ている。
 次女サニー(カラ・ホフマン/シェルビー・ホフマンの二人一役)は、ただただ可愛らしい。そして、周囲の状況を100パーセント理解できないことの幸せと不幸せを考えさせる存在としても機能する。

 このいたいけな三人をイジメまくる(というか殺意をあらわにする)のがオラフ伯爵。ジム・キャリーの聖オーバー・アクションは魅力であると同時に鼻について困るものでもあるが、今回はじめて彼の“凄み”を感じ取ることができた。
 眉、目線、肩のライン、歩調、ヒザの角度、伸ばした指先……。たとえ1カット・一瞬たりとも力を抜かない全身の演技は、スゴイのひとこと。
 その全身全霊ぶりが滑稽さにもつながり、ちょっとマヌケで憎めない悪役としてうまく作用する。なんだか、遺産を手に入れることよりも、ボードレール家の三人を窮地に追い込むこと自体が彼の幸せであり、その策略が失敗に終わる不幸せにもマゾヒスティックな快感を覚えているように思えて、稀に見る名敵役である。

 ジム・キャリーに合わせるように大仰にジョセフィーンおばさんを演じたメリル・ストリープや、ノンクレジット出演のダスティン・ホフマン、モンティおじさん役のビリー・コノリー、この手のストーリーには不可欠の“振り回される役どころ”であるミスター・ポーのティモシー・スポールまで、みんな楽しんで生き生きとしていて、役柄にピタリ。
 児童小説の映画化だが、意外にも配役と演技が本作最大の見どころとなっている。

 その登場人物たちを取り巻く世界も楽しい。セットっぽさとスタジオっぽさと合成っぽさが目立つ画面は、これがファンタジーであることを思い知らせて、アクの強いジム・キャリーを映画の枠内に収めてくれる。
 音楽も、能天気さが逆にボードレール家のテンションの低さを際立たせる「Lovely Spring」やエンディング・テーマ「Drive Away」、ハンガリアン・ラプソディーなど画面と世界観に合致していて上々だ。
 テンポも軽快で、ダレることがない。特に最初のクライマックスである鉄道のシーンは、状況、演技、クルマと伯爵のカットバックがキレイにまとまって、その後の三きょうだいに襲いかかる伯爵の策略=スーパー不幸せの予兆としてスリリングに展開する。

 で、描かれるのは、そんな不幸せ的状況の数々。
 不幸せを描く。それはとりもなおさず「幸せとは何か」という問いかけであり、幸せをつかむために必要なことを観る者に再確認させる働きもする。
 ボードレール家の三人は、確かに不幸せだろう。いっぺんに両親を亡くしたうえに、非情な悪人につきまとわれることになるのだから。
 けれども、それぞれの特技と機知と勇敢さをもって、不幸せ的状況をひとつずつ打破していく姿は、颯爽として、きょうだいが持つ信頼感の強さもうかがえて、ああ幸せってのは自らの手と“つながり”の確かさでつかみ取っていくものなのだなぁと、そんなふうに感じさせてくれる。

 そうしたテーマを考えれば、たとえばぎゅっと手を握り合うきょうだいの姿がもっとあってもいいように思うし、まだまだ不幸せは足りない(どうやら日本語訳で全9巻ある原作の3巻分の映画化のようだ)。
 また未解決のまま残されていることもあるし、「ハッピーエンドの物語が好きな人には、おすすめできない」という売り文句の割に爽快さが強くて拍子抜けする。
 それに、ヴァイオレットとクラウスのツーショット、人物のバストショットがやや多めで、セットっぽさ・スタジオっぽさともあいまって、コンパクトすぎるというか、世界の狭さにつながってしまっている。

 不満はいくつかあるけれど、隣り合わせにある不幸せと幸せ、あるいは不幸せだからこそ見えてくる幸せを感じさせる、ハッピーでアンハッピーで可哀想で楽しい、という映画である。

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