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2006/02/05

アビエイター

監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ/ケイト・ブランシェット/ケイト・ベッキンセール/アレック・ボールドウィン/ジョン・C・ライリー/アラン・アルダ/イアン・ホルム/ダニー・ヒューストン/アダム・スコット/ジュード・ロウ

30点満点中17点=監4/話2/出4/芸3/技4

【航空王にして映画王、ハワード・ヒューズの青春】
 油田掘削機の製造・販売で巨万の富を築いたヒューズ家。跡取りのハワードは潤沢な資金を武器に、長年の夢だった映画製作と航空機開発・航空会社運営に乗り出す。天賦の才能と行動力、リーダーシップを発揮するハワードだったが、戦争終結により機体は買い手を失い、ライバル会社と政治家による妨害にも遭い、墜落事故を経験し、最愛の女性キャサリン・ヘプバーンは彼の元を去る。そして極端に細菌を嫌う心の病も、彼を苦しめていた。
(2004年 アメリカ)

【大胆な人間を大胆に描いた作品】
 おカネってのは重要だ。カネがすべてではないし、必要以上の贅沢をしたいとも思わないけれど、夢の実現、快適な生活、トラブル解決のためには、やっぱりカネはあったほうがいい。
 タンマリあるなら、複数の夢の実現、快適な生活の持続、トラブルの回避も可能になる。あるんだったら使わなきゃもったいない。
 問題は、並の人間ならそれが“浪費”につながる可能性が大ってこと。カネを使う際には、才能と熱意と節度と責任が求められるはずだ。

 ハワード・ヒューズは、略歴を読む限り、そして本作を観る限り、節度と責任はともかくとして、才能と熱意にあふれていたことは間違いない。
 そして、才能と熱意にあふれるガキを演じさせると、レオはこんなにもピタリとハマる。なんというか「レオナルド・ディカプリオの姿をした、野心家・飛行家がそこにいる」という感じ。相変わらずホントの身長とかプロポーションのわかりにくい体型でスターっぽくないし、じゃあ他の役はできるのかという疑問も沸くけれど、大胆な発想と行動力を持つ人物に完全同化しているように感じた。

 物語は、そんなハワードの大胆さに的を絞った、大胆な構成。なにしろ遺産相続前と晩年は大胆にカット。ひたすら、彼が大胆に振る舞った時期だけを切り取ってストーリーをまとめてある。伝記映画の形式に則らない作りといえるだろう。

 映像的にも大胆だ。
 赤いランプ、レストラン内の照明、カメラのストロボやライトといった各種の灯りで彩られた印象的な絵、隅々までシャープに撮られた画面の中に、モノ・人物を収めるフレーミングのセンスが、まず大胆。10のものを10映すのではなく、8くらいフレームの中に入れば十分、と思い切りよく寄っている感じだ。それでも窮屈さはなく、むしろダイナミックな印象を残す。
 その場所にカメラを持ち込んで大きく回して空間を表現する、というカットも多い。『地獄の天使』撮影シーンも、時間はわずかだがスペクタクルを味わえる。その試写も断片的ながら迫力が伝わるよう整理されている。航空機の速度記録挑戦シーンのスピード感・浮遊感も上々だ。
 編集も大胆。通常は2カットくらいでいいところを5カット使っているような細かさ。そのつなぎかたも、ナチュラルさより切れを重視してズバズバと切り替える。
 メタリックな機体を再現した美術、さまざまなタイプの航空機を重量感たっぷりに飛ばしてみせたCG、チャイコフスキーからブギウギまで幅広い音楽も大胆さを支えている。

 そんな大胆な仕上がりの中で、クローズアップされるのがハワードの内面というのも面白い。
 手を洗って洗って洗って洗う。落ち着かない様子でズボンを持ち上げる。同じ言葉を何度も繰り返す。偏執狂的かつ潔癖症的な様子(強迫性障害だったらしいが)を細かくしつこく描いていく。
 その細かさしつこさがハワードという人物像をデフォルメしながら浮かび上がらせて、バッサリとカットされている彼のバックグラウンドを「ま、別にどうでもいいか」と思わせる効果を果たす。かといって偏執狂的かつ潔癖症的な人物としてだけ彼が印象に残るわけではない。「未来への道だけを見て歩き続けてきた人間」だと思える。恐らく、その姿を映し出すことが本作のテーマだったのだろう。

 ただ、作品を通じて何をいいたかったかと考えると、どうも消化不良。ひょっとすると、大胆さ、しつこさがまだまだ足りなかったのではないか。
 ハワードが映画や空に情熱を傾けるようになった動機、そのための努力なども見せて欲しかったと思うが、そうすると本作の魅力である大胆さが薄まってしまい、凡作に堕す恐れもあるので難しい。
 とはいえハワードの70年の生涯のうち、本作では23歳~45歳くらいまでを描いているわけだが、濃密さを出すには長すぎる。いっそ映画制作に関するエピソードは味つけ程度にして航空機関連の出来事だけに絞れば、隔離されて育った幼少期、その反動としての空への憧れ、それでもまだ彼の精神を蝕み続ける強迫性障害、と、物語はスンナリと流れ、と同時に密度もあって主張もわかりやすいものになったはずだ。アビエイターって、飛行家という意味なんだし。

 例によって曖昧なたとえをすると、プロレスのメインイベントの2つ前に組まれている試合、というイメージ。タイトルマッチのメインイベントは、そこに至るまでの王者・挑戦者のストーリーもハッキリしていて、試合そのものも互いの持ち味が発揮されたハードかつユニークなものになる。が、2つ前の試合は、往々にして主催者が無理やり&急遽作り出した因縁に基づく対戦だったりして、どうもそのストーリーにのめり込みにくい。急造だから試合そのものもしょっぱくなりがちだ。
 幸いにも本作はしょっぱくなることはなかったが、もっともっと濃さを味わいたかった、とも思うのである。

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