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2006/02/12

ドニー・ダーコ

監督:リチャード・ケリー
出演:ジェイク・ギレンホール/ジェナ・マローン/メアリー・マクドネル/ホームズ・オズボーン/マギー・ギレンホール/デイヴィー・チェイス/キャサリン・ロス/ドリュー・バリモア/パトリック・スウェイジ/ノア・ワイリー/ベス・グラント/ジェームズ・デュヴァル

30点満点中16点=監4/話3/出2/芸3/技4

【28日6時間42分12秒の幻惑】
 ウサギ男に誘い出されて家を出た夜、飛行機のエンジンが部屋に落下、高校生のドニーは死を免れる。ウサギ男いわく「世界の終わりまで、あと28日6時間42分12秒」。その後もドニーにまとわりつく、不思議な出来事と数々の幻覚。学校を水浸しにしたのも、豪邸に火をつけたのも、すべては自分の行為なのだろうか……。困惑するドニーは転校生のグレッチェンと恋に落ち、セラピーやある書物を通じて解決の糸口を探ろうとする。
(2001年 アメリカ)

【歴史的怪作のはずが、どことなくフツー】
 英Empire誌が発表したというインディペンデント映画ベスト50。そのうち10本くらいしか観ていないのは、ちょっと恥ずかしいのか。
 第2位が本作。加えてサンダンス映画祭で評判を呼んだとか、21世紀最初のカルト・ムービーだとかいった風評から、ズドンと脳髄を打たれるようなホンモノか、ちょっと苦味のある一品のどちらかだろうと予想していたのだが、そのどちらでもなく、意外とフツー

 いや、これをフツーと感じてしまうのは、やたらヒネりまくったりオチの意外性だけを求めて作られる昨今ハヤリの映画とか、中高生が人を殺すのは当たり前という現代社会に毒されている証拠なのかも知れないが。
 つまり、現在のレンタルビデオ店の棚や身の周りにある、数々の毒を超えるだけの凶悪性を放っていないというか、キリキリと締めつけてくる感覚が足りない、という印象だ。

 画面は懸命に不可思議さを醸し出す。自然光や部屋の照明を基本としつつ明暗のコントラストが際立つように絵が作られ、ウサギ男のフランクはアンダーで映され、炎や水や胸から飛び出すジェル物体の特殊効果・撮影も鮮やかだし、常にドニーを見ている太ったコ(シェリータ)も薄気味悪い。
 物語のテンポも、冗長にならない程度にのっぺりとして、それなりにミステリアスな空気を作る。

 が、そこにいるのは、フツーの少年。ドニーを演じたジェイク・ギレンホールは、あまりにフツー。学校の制服らしい白のワイシャツをまとい、たいした趣味もなく、小説家か画家になることを夢想し、頭の中で渦巻くことが整理されずに言葉として出てくるあたり、どこにでもいる高校生。恋もすれば、納得できない事柄には食ってかかる若者らしい無鉄砲さも持っている。ある意味、見事にフツー。
 彼を抑圧し、彼の起爆剤となる存在たちも、押しつけがましい教師とか偽善者とか不良とか、気ままな姉とか、やっぱりフツー。
 たぶん、そのフツーさの中に潜む狂気が本作のテーマなのだろう。どこにでもいそうな子なのに逮捕歴があるとはね、とか、そういう子だからこそ精神的錯乱が一気に進むのかね、とか。
 で、こちらとしても、この28日6時間42分12秒を、どこかにいるフツーの子の心の中の暗闇として、ちょっと突き放した感じで観てしまうことになって、怖さとか「どうなるの?」「どういうことなの?」といった気持ちが沸いてくることがない。キリキリしないのだ。

 その他の豪華キャストも、キリキリしない要因。ドリュー・バリモアにパトリック・スウェイジに、キャサリン・ロスまでいる。しかも、ネームバリューと役柄の重さとが一致しない使われかた。
 ひょっとすると、少年の人生の傍らを通り過ぎるだけの「たいしたことのない」はずの人たちが、実は重く心に刻み込まれる存在になりうる、ということの表現かしらと思うのだが、どうもドニーの頭にあるのは、イライラから脱することとグレッチェンのことだけ。
 なんとなく、映画としてのバランスを欠いてしまっている(ついでに次女サマンサ役のデイヴィー・チェイスが妙に上手いのも、それが気になって観賞意識のバランスが崩れる)ように感じてしまう。

 とはいえ「お話の始まりはあるのに、終わりがない」という映画が多い中にあって「終わりはあるのに始まりがない」という作りは、なかなかに面白い。どこが始まりなのか、これが本当に終わりなのか、なぜ始まったのかなど、いろいろ考えたり語ったりするネタにはなってくれるかも知れない。

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