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2006/03/24

復讐者に憐れみを

監督:パク・チャヌク
出演:ソン・ガンホ/シン・ハギュン/ペ・ドゥナ/イム・ジウン

30点満点中20点=監4/話4/出5/芸3/技4

【憎しみが憎しみを、復讐が復讐を呼ぶ】
 聴覚に障害を持ち、腎臓病の姉を抱えるリウ。頭が悪いながらも真面目に働いていたが、工場をリストラされ、姉の手術費用にと貯めた1000万ウォンの金も騙し取られてしまう。仕方なく彼は、反体制運動に熱意を燃やす恋人のユンミとともに営利誘拐を画策する。ターゲットは、リウが勤めていた会社の社長パク・ドンジンの娘。首尾は上々に思えたが、誘拐の事実をリウの姉が知ったことから、事態は予期せぬ方向へと急速に転がっていく。
(2002年 韓国)

【映画はこうして、凶器となりうる】
 問題の解決、特にトラブルを治めるための最高の策は、暴力だ。そして実はわれわれは「ラブ・ピース」と叫びながらも、知らず知らずのうちに(あるいは確信を持って)暴力による解決を実践している。
 法律は、その強制力と罰則ゆえに暴力といえるし、最大公約数的な考えで成立していることじたい、柔軟な思考を奪う一種の暴力である。カネによる解決も、プライドを踏みにじる暴力。話し合いも、優位に立つ者が相手に譲歩や打算や諦めを強いるという点で暴力にほかならない。
 ただ、直接的な暴力……殴る、蹴る、刺す、撃つ……に比べると穏やかに見えるだけの話だ。血は流れないが、その代償としてなんらかの“しこり”を生むことも、ままある。
 火種を残さぬ完全な解決を望むのなら、直接的な暴力に訴えるべきだ。拳か刃物か爆発物で、相手を抹殺すればいい。要は、それだけの覚悟を持ち、罪悪感を捨て去れるかどうか。

 怒りに震えながら、同時に罪悪感を捨て去れぬまま、復讐の連鎖の中を彷徨う人々。その“憐れ”な姿を冷徹に、静かに、コッテリと描き出すのが本作だ。

 とにかく、ヴィジュアル・イメージの冷たさが圧倒的。ただ状況を映すのではなく、1カットずつがギラギラと鈍い光を放つ。
 溶鉱炉、ベッドの足元に置かれた鏡、切り裂かれる腹、エレベーターの中のリウとユンミとの対面……。俯瞰や幾何学的なカットも多用しつつ、徹底的に殺伐とした空気を作り出していく。
 ただイメージだけに凝り固まるのではなく、各カットがストーリーをしっかりと推し進める機能も持っている。シートベルトで助手席に固定されたアタッシェ・ケース、悪漢が「かなり遠いところまで持ち帰る」とケーキを買う意味、吠える犬など、ヘタな説明抜きに「ああ」と感心・納得させ、ズドンと衝撃を与えるカット/シーンの、なんと多いことか。
 特に、リウが工場でクビを言い渡されるシーンから臓器斡旋業者のアジトまでの流れは、意味のあるセリフをほとんど用いないまま追い詰められたリウの様子を描き出していて、身震いするほどの出来栄えだ。
 ラジオの投稿コーナーと川原の水溜り、冒頭の描写が思わぬところで再出したり、社長と刑事の会話/ユンミがかける電話のカットバックなど映画的な仕掛けも面白い。

 セリフも「不良品は0.008%だけ」や「私、もっと早く○○を習っていれば」など、意外性に満ちて鋭角的。工場に響く重低音、泣き声、静寂、金属バットを叩きつけ、石を川面に跳ねさせ、『ぼのぼの』をバックに事態が一転し、と、音の使いかたも上手い。
 苦渋に満ちたパク社長役ソン・ガンホ、狂気に染まっていくリウ役シン・ハギュン、ともに味わいあり。もちろんユンミを演じたペ・ドゥナも、ベッドシーン以上に死に瀕した場面で色気を感じさせるなど極上だ。

 静かに進む映画ではあるが、ストーリー/セリフ/演出/役者が一体となってとてつもない密度を生み出し、シャープに磨き上げられた本作。
 登場人物たちはナイフを振るい、ドライバーを突き刺し、電気の力で憎むべき相手を感電させるが、それ以上に、この映画そのものが観る者を平伏させる鋭い凶器である。

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